第50話――潜伏先


「『私も殺される』と!」


 後部座席の由良ゆらは、運転している九十九つくもに向かって声を荒げた。


「……それをに受けたのか? 彼女はこの事件の第一参考人だぞ! 西野裕子の死ぬ直前に連絡をとり、行方も暗ましている!」


 九十九は苛立ちをこらえるように眉をひそめながら、運転を急いだ。

 あるビジネスホテル前に、車を止めた。

 

「部屋番号も聞いたんだな!」


「……! ちょっと待ってください!」


 急いで車を降りようとする刑事二人に向かって、由良が両手を上げて必死に制止した。

 

「今の状況では、証拠は揃ってないですよね!」


 思わず九十九が動きを止めた。

 由良が語気を強めた。


「……?」


 九十九は振り返って、由良の方を向いた。

  

「確かにそうだが、本人から話を聞かないと――」


 そう言って再びドアノブに手をかけようとした。


「逃げられたら?」

 

 由良の言葉に、再び九十九は振り返った。 

 反論しようとしたが、それを呑み込むように先に由良が畳み掛けた。


「そうでなくても、九十九さんの出で立ちでは、あまりに威圧感があり過ぎます。


「……なんだと! ……」


 その遠慮の一切ない言葉に、九十九は思わず口をつぐんでしまった。

 由良は全くたじろがずに更に言い切った。


「彼女は私の過去のクライアントです。少なくとも、あなたよりは心を開くかと」


 九十九は負けじと言い返そうとしたが、あまりに的を得過ぎていて言葉が出て来ない。


 助手席の高倉たかくらと目が合った。

 彼女は口を閉じたままだ。

 逆にそれが由良の見解は間違っていないという裏返しにも見えた。


「私が先に部屋に入って話を聞きます」


 由良は二人に向かって念を押した。

 双方に沈黙が流れた。


 すると、九十九はこらえるように言葉を漏らした。

 

「……。ただ一人では行かせられない。刑事を舐めるな。部屋の外で待機している。何かあったらすぐに突入するからな」

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