第42話――突然の接触


 三人は研究室を出た。

 

「少しトイレに」


 由良ゆらがそう言って、近くにあった男子トイレに小走りで入って行った。

 九十九つくも高倉たかくらが廊下で待っていると、研究室からさっき論文の整理をしていた女学生二人が出てきた。

 

「ああ。ちょっと」


 九十九が呼び止めるように声を掛けた。

 彼女達は立ち止まり、こちらを向いた。


「さっきは聞きづらかったけど……。学生の間では、半田先生の評判はどうだったのかな?」


 二人は少し躊躇ためらう感じでお互いに目を見合わせると、少し周りを気にする様子で顔を寄せてきた。

 茶髪を後ろでまとめているその女子大生は声を潜めながら、口を開いた。

 

「……評判はとてもよかったです。半田先生は結構イケメンでしたし。特に女子からは人気高かったです。実は、私達……今でもの講演会に足を運んでて。ていうか、他にも行ってる子、結構いるし。ねぇ」


 女学生達は途中から浮かれてるような感じで話し始めた。

 

「……ああ……そう……」


 予想外の返答に、刑事二人は反応に困るように顔を見合わせた。


 ‡


 由良ゆらが洗面台で手を洗っていると、突然、携帯が鳴った。


 慌てて両手をズボンで拭い、ポケットをまさぐりスマホを取り出した。

 ディスプレイを見るとだ。

 彼は電話を耳に当てた。

 

「もしもし」


『……』


 向こうは黙ったままだった。

 

「……どちら様ですか?」


 応答がなかったので、彼は切ろうとした。

 

由良ゆらさんですか……?』


 女性の声だった。


「ええ……そうですが……そちらは?」


『……』


 沈黙が続いた。


「もしもし……?」


 たまらずもう一度訊き返すと、

 

山下正美やましたまさみさんと、西野裕子にしのゆうこさんは……』


 その言葉に、由良は思わず眉をひそめた。

 話の途中で女性は震える声を止めた。

 

「……彼女達を知っているんですか?」


 由良が探るように問いかけると、


『私、見たんです……』


 その声は何かにおびえているようにも聞こえた。

 を置くと、由良は驚いた表情で言った。

 

「……もしかして……さんですか?」


 相手は無言のままだった。

 その反応を見て、由良が確信を得たように言い直した。

 

「やはり、そうでしたか。山下正美さんに私を紹介したのは、あなただったんですね」

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