第41話――異端児


 三人は教授きょうじゅの研究室に案内された。


 助手だろうか。

 若い女学生二人が生徒の論文らしきものを机に並べて、それらを整理していた。


は、その……異端児というか、少し変わったを持っていて」


 石原いしはら教授は言いにくそうに口を開いた。

 すると論文を眺めていた学生二人が手を止めて、こちらを向いた。

 九十九つくもがそれに気づき彼女らの方を向くと、二人は再び視線を落とし作業を再開した。


 九十九は問い直した。

 

「……才能?」


 教授は話を続けた。

 

「……考古学とは、採掘をし綿密に検証に検証を重ね、やっと結論が出せる学問です。無論、私も講義では推論を述べてますが、実際とても保守的で閉鎖的なところもあります。ある日、彼は突然、奇妙な事を口走り始めたんです」


「……何を?」


 教授は大きな溜息をつくと、気を持ち直すように答えた。


「『』と」


 研究室に沈黙が流れた。

 

 学生達が手を止めた事に気づくと、九十九がそちらを向いた。

 彼女達はまた、目線をらした。

 

 石原は言った。

 

「私は彼に問い直したんです。『その根拠は何なのか?』と。そしたら彼は……」


「……何なんです?」


 九十九の傍にいた思わず高倉たかくらがじれったそうに聞き返した。

 教授は彼女の方を向くと、言いづらそうに答えた。

 

が……聞こえると」


 思わず刑事二人が、後ろにいた由良ゆら探偵の方を振り返った。

 

「え? ……何ですか?」


 二人の何か言いた気な視線に当惑するように、彼は顔をしかめた。

 石原は尚も言った。

 

半田はんだ君は、考古学的には全く注目もされていない御子島みこしま辺鄙へんぴな山を指して、『あの山にヒミコの墓がある』と……」


 刑事二人が表情を変えずに視線を交わした。

 

「最初は私も、聞き流していたんです。言うだけならいくらでも自由ですから。でも、そのうちエスカレートして……その山を本気で発掘するとか言い出して。さすがに私も止めました」


 そこで石原は口をつぐんだ。

 

「……それで彼は、あなたの元を去ったと?」


 九十九が問い直すと、彼は戸惑った様子でうなずいた。

 

「……ええ。その後、彼はまるで暴走するかように、『ここにはあの時代の遺物が眠っている』とか言い始めツアーを始めたんです。最初は、周りからほとんど相手にされませんでした」


……?」


 聞き逃したかのように、高倉が反応した。

 石原は上目遣いで彼女の方を見ると、また視線を落として口を開いた。

 

「ある土地の持ち主が、彼の言うことをに受けて発掘調査を依頼したんです。すると周囲の予想を裏切って、いろんな遺物や遺跡が発見された。一時は、ニュースでも取り上げられて話題になりました。それで彼は時の人となり、テレビにまで。……今ではすっかり有名人ですが。


 石原は冗談交じりの自虐で笑みを浮かべた。

 そして、首を横に振りながら言い添えた。

 

「今では彼とは連絡を一切取ってません」


 突然、刑事達の背後に控えていた由良ゆらが、話に割って入るように質問を投げかけた。


「ヒミコの墓があると言っていた御子島みこしまの山は、まだ発掘はされていないのですか?」


 石原が由良の方を向いて言葉を返した。


「ええ。あそこは、地元の住民の反対にあって」


 その口ぶりから見ると、由良の事を完全に刑事だと疑っていない様子だ。

 いきなりの由良の加入に、少し不意打ちを食らったように彼の顔を眺めると、九十九は石原に向き直った。

 

「……それでもツアーをよく決行されてますが」


「山を登る分には別に自由ですからね。さすがに、そこまでは止めれませんよ。あそこは観光客も多いですし」


 九十九は内ポケットを探り、写真を取りだして彼に見せた。

 白衣姿の彼女を指差して、問いかけた。

 

「この女性をご存知ですか? 村上加絵むらかみかえという女性です」


 石原教授は写真を受け取り、目を細めた。

 

「……いや……見覚えないですね……」


 教授は首をかしげながら、写真を九十九に返した。

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