第35話――剥き出しの想い


「すごい量だな……」


 並べられた本を眺めながら、少し圧倒されるように九十九つくもつぶやいた。

 それらのタイトルに目をった。


 ――『靈-スピリット』、『2045年 人類は新しい姿へと変貌を遂げる』、『魔術の真の正体』『もののけ』などなど――


 容易には手に取り難い題名が延々と横に連なっていた。

 由良ゆらが振り返って、躊躇ためらいがちに口を開いた。

 

「それで……どんな感じなんです? 怖いとか?」


 九十九は探偵の方を向くと、少し視線を落としながら言った。


「……怖くはない。ただ」


「ただ……?」


 ふとビルから飛び降りた女性の表情がフラッシュバックし、思わず目をつぶった。

 九十九はその光景を振り切るように言った。


「……その人たちの思いが……剥き出しのまま伝わってくる。まるで、彼らが


 由良は表情を変えずに彼の話を聞き続けた。


「その感覚がいつまでも頭の中を支配して、他の事が全く手につかなくなるんだ……」


 九十九は一呼吸置くと、探偵に向き直って言った。


「……君も、こんな感じなのか?」


 由良は驚く様子もなく静かに相槌を打った。

 

「ええ。最初はそうでした」


 眉をひそめ、九十九はうかがうように問い返した。

 

「……どうやって折り合いをつけてるんだ?」


 長いだった。

 こちらが刑事だから遠慮しているようにも見えた。

 由良は視線を下へ逸らすと、ようやく口を開いた。

 

を」


「……認識?」


 九十九が訊き返すと、探偵はゆっくりと顏を上げた。

 

「家族であったり、趣味であったり。へ」


 をおいて、由良は尚も言った。

 

「そのまま被り続けていると、われを見失い、なかなか後戻りできなくなります」


 九十九が怪訝な表情で、おそるおそる問いかけた。


「……そうなると、どうなるんだ?」


 沈黙の後、由良は尚も表情を変えずに言った。

 

「入院される方も」

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