第34話――奇妙な錯覚


 由良ゆらは考えていた。


 このなんとも表現しがたいは、数日間ずっと続いている。

 あと一歩のところで、スッと目の前から、そのビジョンが消えてなくなってしまう。

 まるで、

 そう。

 この奇妙な感覚が始まったのは、山下正美と初めて会った時からだ。


 突然、ドアの向こうでノックの音が聞こえた。


「……はい!」


 由良は我に返り、玄関へ向かった。

 ドアスコープから外を覗き込む。

 相手を確認すると、ドアをおそるおそる開けた。

 

「今度は……何ですか?」


 強張こわばった表情で、ドアの外に立っていた刑事に向かって言った。


 九十九つくもは眉をひそめながら、溜息をつき視線を落とした。

 まばたきを数回繰り返した後、ゆっくりと顏を上げて言った。

 

「……だんだんが増えてきている」

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