第26話――変容

「これは……一体どういうことだ?」


 目の前に横たわっている変わり果てた西野裕子にしのゆうこの遺体を見て、九十九つくもは状況を呑み込めないままだ。


 いや、遺体と呼べる状態では、もはやなかった。


 その台の上には、が水溜りのようにそこにあるだけだ。


「ラボを閉めようと、一通りチェックした時に発見したんです」


 解剖医の田坂たさかは言った。


「……どうやったら、こんな風になるんだ? 薬物はなかったんじゃないのか?」


「ただ、これだけではありません」


 強張った表情のまま田坂は別の遺体が収納されているボックスの前まで歩いて行き、その取っ手を手前に引いた。

 

「……! こ、これ……まさか……」


 思わず言葉を失う。


 田坂は九十九が想像した通りの答えを返した。


「ええ。山下正美やましたまさみです。この姿だけでは、すぐに特定は困難ですが」


 さっきの遺体よりは、まだ


 しかし残っているのはで、その見た目だけでそれが山下正美本人なのかは、おおよそ見当もつくはずもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る