第25話――告げられた事態


 九十九つくもは外灯に照らされた帰り道を歩きながら、記憶を辿っていた。


 幼稚園の頃だ。

 当時は人見知りする性格で友達も少なかった。


 ただ、一人だけ気の合う子がいたのを、うっすらと覚えている。

 名前は全く思い出せないが。


 ふと携帯を見ると、着信があった。

 マナーモードにしていたため、気づかなかった。

 九十九は舌打ちをすると、すぐにその番号に掛け直した。

 すると、解剖医かいぼうい田坂たさかが出た。


「どうしたんだ……?」


 問いかけると、いつもの彼とは違う辿々たどたどしい返答が返ってきた。

 受話器を通しても、明らかに動揺している様子が伝わってくる。


「何があった?」


 再度問いかけると、ようやく田坂は落ち着きを取り戻したように事の次第を語り始めた。


「…………何だって?」


 受話器の向こうから告げられたその異変に、九十九は耳を疑った。

 彼は、はっきりと確信した。

 

 、と。

 

 電話を受けながら、ふと前方に目に入ったものがあった。

 外灯の下に人が立っていて、じっとこちらを見ていた。

 携帯を耳に当てながら目を細める。


「……!」


 その見覚えのある顔に、思わず目を見開いた。

 

「ま……まさか」


『九十九さん……?』


 受話器の向こうにいる田坂が呼びかけた。

 九十九は視線を前に向けたまま、

 

「……すぐ、署に向かう」


 そう言って電話を切った。

 そして、八メートル先ほどでたたずんだままでいるその人物を見据えた。


 間違いなかった。


 さっき実家でみたアルバム。


 そこに写っていた男の子だ。


 灯りに照らされ、浮かびあがった青いTシャツ。


 少年しょうねんは無表情だった。


 ただただ、じっとこちらを見つめたまま動かないままでいる。


 茫然としていた九十九は我に返り、ゆっくりと前に一歩踏み出した。

 次第にその足並みは早くなった。


 すると、男の子はその場から逃げるように右方向へ走って行った。


「お……おい! ちょっと、君!」


 追いかけようと、その子が駆けて行った角を曲った。


 思わず視線を泳がせる。


 外灯の白い光に照らされた電信柱と家の塀が見えるだけだ。


 少年の姿は、もうそこにはなかった。

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