第23話――旧い友人


午後七時過ぎ。


辺りはすっかり日も落ちて暗くなった中、九十九つくもはある住宅街を歩いていた。


「ただいま」


ガラガラっという音を立てて和式の引き戸を開けた。


「……え? 泰章やすあき?」


 奥から声が聞こえてくると、

 

「どうしたの? 珍しい」


 肌色のカーディガンを羽織はおった白髪で面長の女性が少し驚いた表情で出てきた。

 顔はせていて七十代くらいに見える。

 

「たまたま仕事の用事で、こっちに来たからついでに」


 彼は笑みを浮かべながら言うと、玄関に腰を下ろし黒い革靴を脱ぎ始めた。

 


 泰章やすあきは仏壇の前に腰を下ろし胡座あぐらをかいていた。


 御前おまえには、六十代後半くらいだろうか。

 白髪交じりで四角ばった顔つきの男性の写真があった。

 泰章は、その隣に置かれてある写真に目を遣った。


 男の子の写真だ。


 半ズボンに青のTシャツを着ており、あどけない笑顔を向けている。

 キャンプに行った時の写真なのだろうか。

 背景には木々が生い茂り、テントも写っていた。


 泰章は気が付くと、その写真に自分の幼い頃の面影を探していた。

 

「母さん」


 彼は仏壇にしばらく手を合わせた後、口を開いた。

 

「何?」


 傍に座っていた母が顔を上げて訊き返した。

 

「兄さんが映っている写真って、他にもまだ残してある?」


 突然、あらたまるように母の方に向き直って聞いた。

 

「ええ、もちろん。……どうしたの? 急に」


 母は少し戸惑ったように聞き返した。

 

「いや……今なら少しは思い出せるかなと、ふと思っただけ」


 泰章は場を和ませるように笑いを交えながら言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る