第22話――打ち切り


由良ゆらさん。起きてください。」


 留置場の中で、彼は目覚めた。


 ふと見ると、若い看守が鍵を開け格子を開いている。

 いぶかしげな表情を浮かべて見ていると、警官は中に顔をのぞかせて言った。

 

釈放しゃくほうです」



山下正美やましたまさみの死に事件性はない。との判断だ」


 九十九つくもはさっき起きたばかりの眠そうな探偵を目の前にして言った。

 

「捜査は打ち切りですか……」


 由良ゆらは溜息交じりにつぶやいた。

 その表情には、残念さと相まって安堵の色が浮かんでいる様にも見えた。


『もうこれ以上関わらない方がいい』


 由良が自分の罪から逃れるためにそう言ったのではないことを、九十九ははっきりと確信していた。

 

 本当にこちらの心配をしているのだ。

 関わる者全ての身を。

 

 この小柄な青年は一連の事件の要因を、肌で感じ取っている。

 

 正体はわからなくても、

 

 思わずその事についての質問をしそうになった自分に気づき、九十九は思いを振り払う様に由良に向かって言った。

 

「君は、もう釈放だ。お疲れ様」


 そう言うと、背を向けて歩いて行こうとした。

 

「……何か、気になる事が?」


 引き留めるような由良の声に、思わず九十九は足を止めた。

 

 まるで心の内を見透かされたような気分になり、背を向けたまま必死に動揺の色を押し殺した。

 無表情を保ったまま振り返って言った。


「捜査に関わることは言えない」


 そう言ってまた背を向けると、九十九は足早に廊下を歩いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る