第19話――被害者達の繋がり


 二人は捜査を続けた。


 さっき見たものを頭の中からき消そうとするかのごとく、九十九つくもは窓際に置かれた机の棚を上から順番に開けていった。


 松村まつむらは反対側の押入れを開け中をライトで照らした。


 九十九が棚の中のクリアファイルを調べていると、ある書類が目に留まった。

 その紙を手に取り読み上げた。

 

「『イワクラ巡りツアー イン御子島みこしま』? ……半田……義就よしなり? って読むのかこれ?」


「……半田義就はんだよしなり……? 聞いたことあるな」


 押し入れを調べていた松村が手を止めてこちらに近づいてきた。

 

「ああ! そうそう! 最近、ミステリー探索番組で出てましたよ! 元教授かなんかで」


 松村が九十九の手にあるそのチラシを指さして言った。

 

「イワクラ……って何だ?」


 九十九が眉をひそめながら問い返した。

 松村が番組の内容を必死に思い出すように言葉をつむぎ始めた。

 

「確か……諸説によると……古代の人々が、その……神様を崇めるために山の頂上に据え置いたとか。そういう岩らしいです。石には神が宿るという言い伝えがあるそうで。日本のあちこちの山で見つかってるみたいですよ。ただ、本当のところは何のために置いたかはわからないって、この元教授は言ってました」


 『結論としては、何もわからない』という辿々たどたどしい松村の解説を聞いていて、九十九はふと何かに勘付いた。


「……ひょっとして、彼女が持っていた石も……」


 九十九はそうつぶやきながら、神棚の方を振り返った。

 

「この石ですか?」


 松村が物珍しそうに神棚に置いてあった石を手にとって、まじまじと眺めていた。

 

「あ……! バカッ! それに触ると……」


 九十九は言いかけた言葉を、咄嗟に呑み込んだ。

 

「え?……なんですか?」


 松村がポカンとした表情をこちらに向けた。

 

「いや……何でもない……」


 目をしばたたかせながら、必死に誤魔化ごまかそうとした。


 『たたり』なんて言葉、死んでも口に出せるわけがない。

 

「あ! これ……」


 松村が背伸びをし神棚の前に倒されて置かれていたその写真を手に取り、こちらに見せた。


 九十九はそれを受け取ると、内ポケットから老眼鏡を取り出してかけた。

 写真に顔を近づける。


 絶妙なバランスで積み上げられた岩々を取り囲むように、二十数名くらいの男女が集まっている。

 

「ツアーの写真か」

  

 その中に、山下正美やましたまさみの姿をはっきりと確認できた。

 赤柄のネルシャツのような長袖を着て、茶色のハットを被り、オレンジのリュックを背負いながら、最前列の右側に座って笑顔で写っている。

 

「あっ!」


 松村が驚いた声を出して、山下正美のに映っている女性を指差した。

 

「これ……!」


「あ?」


 さらに顔を近づけ目を細める。

 松村は横から覗き込みながら言った。


村上加絵むらかみかえに似てないですか? 行方不明の」


 白い手袋をつけたまま松村がポケットから村上加絵の写真を取りだして、その中の看護師姿と見比べた。

 

 全体写真の方では、薄水色のパーカーを着て青のハットを被っている。

 

 よくよく見ないとわからなかったが、確かに顔だけ見ると似通っているようにも見える。


 山下正美と肩を寄せ合っているところを見ると、知り合ったばかりの仲には見えなさそうだ。

 

「……友人同士だったのか……」


「あっ! こ、これ……!」


 松村が更に甲高い声を上げた。


 九十九は彼が指差した後列左端を見た。

 

 山登りにしては、一見場違いとも思えなくもない赤と紺の派手なチェック柄のコートのような長袖のウェアを着て、カーキ色のリュックを背負い、帽子を被らず髪を上に上げた女性がいた。

 

 九十九は写真を持ったまま、らすようにつぶやいた。

 

西野裕子にしのゆうこ……」

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