第17話――遺体が語るもの


死因しいんは……」


 解剖医の田坂たさかは言葉を詰まらせた。

 言いあぐねている彼に代わるように、九十九つくもが口を開いた。

 

老衰ろうすいか」


「……ええ」


 その場にいた松村まつむら刑事も含め全員が黙り込んでしまった。

 

 疾患しっかんがない。

 

 その状態について、さらに何を質問すべきなのか?


 自分がの辺りにした事など、口に出せる筈もない。

 

 九十九が次に訊くべき事を咄嗟に頭の中で探そうとすると、田坂が気を取り直すように先に口を開いた。

 

「……ただ気になる点が」


 そう言って、年老いた遺体の左腕を両手で添えるようにして持ち上げた。


「手の甲を見てください。複雑骨折しています。まるでボクサーのよう。何かを力一杯殴らないとこうはなりません」


 見るとあざが広がっていて黒紫に変色していた。

 九十九がそれに反応し、口を開いた。

 

「何かではなく、だ。彼女は探偵の由良ゆらに言ったそうだ。『友達に暴力をふるってしまった』と」


 松村が思わず眉をひそめた。


「……でも普通、拳がこんなになるまで殴りますかね? 友人を」


 九十九は表情を変えず、年老いて動かなくなった山下正美やましたまさみを見つめながら言った。


「……両者の間に、何かがあった。その友人が誰なのか。今回の事件に関係あるかどうかはわからないが、一応探る必要があるな……」

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