第16話――語りかける者


 とあるアパートの一室。


 夕日が白いカーテンを抜けて、電気のついてない部屋をオレンジ色に染め上げていた。


 おんな白装束しろしょうぞくを着ていた。


 神棚に向かい両手を組んで、ブツブツと何か祝詞のりとのようなものを唱えている。


 その声はおどろおどろしく、後ろ姿から受ける若い印象とは全く違う声色だ。


 しわがれた、まるで老婆のような声。


 髪は肩より少し長く、結わずに解けたままでいた。


「いつになれば……」


 女はつぶやいた。


 しばらく黙った後、

 

「わかりました」


 独りで言葉を返し、うやうやしく頭を下げた。


 また神棚に向かって問いかけた。

 

「何をすれば……」


「わかりました」


 まるで誰かと会話しているかのように、うなずいている。

 

 神棚には写真が置かれていた。


 何かの全体写真だろうか。

 

 中央に岩が積み上げられていて、それを囲むように男女が二十名ほど写っていた。


 女は頭をゆっくりと上げて、部屋を見渡した。

 

 まるで何かを注意深く探すように、目を見開きながら視線をゆっくりと動かしていく。

 

『断断断断断断断断断断――』

 

 何処を見渡しても、部屋はで埋め尽くされていた。


 壁も天井も一切の、延々と同じ字が書かれた白いおふだが貼られてある。

  

 彼女が今腰を下ろしている、

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