千尋さんのことが知りたくて
俺と隣に住んでいる悠真君が高1になったある日、母さんが新種のウイルスに感染した。
近年世界中で猛威を振るっているウイルスで、あまりの感染者の多さに病院はパンクしかけており、自宅待機を命じられることも珍しくない。
実際、母さんも自宅待機を命じられた…。
同居する俺にうつらないよう、母さんが完治するまで隣の水無瀬家に居候させてもらうことになった。縁があるとはいえ、ここまでしてもらえるのは嬉しい。
この居候の期間に、悠真君のお母さんである千尋さんと距離を縮めるんだ…。
夕飯を済ませた後、悠真君の部屋で待機する俺。
居候する間、俺は悠真君の部屋を使わせてもらうことになる。
「慎吾君。母さんと距離を縮めるチャンスだね」
悠真君は何故か応援してくれる。
「良いのか? 俺、暴走するかもしれないぞ」
もちろん気を付けるけど、万が一がある…。
「もしそうなったら、僕が綾香さんに同じ事しちゃうだけだよ」
悠真君、笑顔で怖いこと言うな…。
綾香さんというのは、俺の母さんのことだ。
俺と悠真君は、互いの母さんが気になっている…。
のどが渇いたので1人でリビングに向かうと、シャンプーの香りがした。
風呂の順番は、悠真君・俺・千尋さんとなっている。
このシャンプーの香りは、俺と悠真君が使ったやつじゃない。
となると、千尋さんが風呂から出たばかりなのか?
…良くないのはわかっているけど、覗いてみたい…。
俺は水道水を1杯飲んだ後、千尋さんの部屋の前に向かった。
千尋さんの部屋の前に来た。引き返すなら今の内だが…。
……我慢ができないので、扉をちょっと開けて中を覗く。
千尋さんはドライヤーをかけていた。服は既に着ていたか…。
この状態なら、覗きがバレても何とか許してもらえるだろう。
…急に千尋さんが扉のほうを観た。俺の視線と気配に気付いたのか?
しかも近付いてくる。これはバレたな…。
「慎吾君、どうかした?」
扉をちょっと開けてから、千尋さんが尋ねる。
何とか逃げたかったが、体が動かなかった…。
ドライヤーの風でなびく髪に見惚れていたからな。
「いえ…、何でもないです」
言い訳が思い付かない…。
「慎吾君、覗きはダメだよ♪ 女の子にモテなくなったらどうするの?」
俺としては千尋さんにしか興味がないから、そんなのどうでも良いんだが…。
「覗きをする悪い子には、おしおきね♪」
そう言って、俺にデコピンをする千尋さん。
デコピンはとても弱く、千尋さんは怒っているようには見えない。
これぐらいでは怒らないのか。覚えておこう。
「綾香さん、早く治ると良いわね」
「はい…」
幸い軽症なので、スマホを通しての連絡は容易にできる。
「若いからって、夜更かしはダメだからね」
そう言って、自分の部屋に戻っていく千尋さん。
俺も悠真君の部屋に戻ろう。
「遅かったね。母さんと話せた?」
悠真君が成果を訊いてくる。
「まぁね。部屋を覗いたのがバレたけど…」
彼には嘘を付きたくないから、正直に言おう。
「そこまでやったの? 慎吾君、大胆だな~」
「着替え中じゃなくて、ドライヤーをかけていたんだけどな…」
「そうなんだ…。残念だったね」
これで悠真君も、母さんの部屋を覗く可能性が出た訳だ。
とはいえ、俺がどうこう言うつもりはない…。
「…そろそろ寝ようか」
俺も眠くなってきたからちょうどいいな。
「そうだな」
悠真君が部屋の電気を消したので、悠真君はベッドに、俺は借りた布団に入って就寝した。
母さんが完治したら、この居候は終わる。
時間の余裕はあまりないから、スピードも意識するようにしよう…。
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