異世界もので通用するかもしれない食レポ案件
がりごーり
イナゴの佃煮
異世界転生もので和食再現の際、なんかリアルっぽくないというか…特にニッチな系統のネタのウソ臭い部分が気になったので、その補間用に。
今回のネタは『イナゴの佃煮』。
素材集めに関しては、ほぼノンフィクション。
ただし、私が書き手として記すところは当時を知る語り手から伝い聞きのローカルルールな口伝に近く、確実で正確か? と問われたら保証はできかねる部分もアリ。
因みに時代は約100年前。西暦2022年、令和四年を現在としての、リアルな意味での100年前である。
当時の農業は機械化が皆無とは言わないが農民と呼ばれる層の大半は人力で全ての作業を賄っていた頃。化学肥料? 肥料といったらもう、地元コエダメ産での地産地消っスよ。
同じように農薬・除草・害虫対策も天然由来の活用か、人界戦術となる。
特に有益な害虫――イナゴ対応は人界戦術が基本だそうで。
投入戦力は地元の子供達。
子供の小さな身体と手は、作物も隙間を隠れ行くイナゴを見逃さず素早く的確に〝手掴み捕獲〟できる貴重な存在なのだとか。
そして捕獲時の生活の知恵。
時間は早朝。陽の昇り始めで周囲が確認できる程度の明かりがあれば良い頃合い。
なんせ当時の農村には街灯なんて存在しない。夜中は晴れてさえいれば満天の星明かりで案外明るいが、日の出付近は明暗のコントラストもキツく影の部分は真の闇と言って良いほど何も見えない状態なのだ。
それではさすがに、草の隙間の虫探しなど不可能なのは当たり前。
そしてこの時間に行う最大の利点は、陽の昇り始めで生じる放射冷却現象で一時的に気温が急降下する事と、朝露によって田畑の周辺が濡れる事。
凍えた上で濡れた身体。この状態ではイナゴはろくに動けず、苦労なく確保することが可能なのだとか。
そして捕獲時の一手間。
一匹一匹捕まえた際に〝後ろ肢の部分だけは捥いでおく〟事で、万が一逃げられた時でも再度捕まえやすくしておく事。イナゴを始めとしたバッタ類は後ろ肢にて高く素早く跳ねている。つまり後ろ肢が無ければ連中は這いずり行くしかできないのである。
因みに、ならなんで全部の脚を捥がないのか? そりゃ可食部が減るからである。
さらには、後ろ肢は硬い上にトゲもある。残しておくと喉に引っ掛かったりして食べた時の食感も大分違うわけだ。
食べやすさの注意では他にもイロイロとある。
サイズは体長2センチ程度が望ましい。イナゴの場合、この大きさだと外殻が薄く調理後の食感が軽くなり咀嚼時の抵抗がほぼ無いまま粉々になる。煎った直後の桜エビにも勝る軽さである。逆に3センチを越えるサイズとなると途端に外殻の硬さが増し、下手をすれば鶏卵の殻を噛んだような食感にすらなる始末だ。
また翅の頑丈さが尋常で無くなり、まず噛み砕けなくなるため、後ろ肢を除く時と同時に捥いどかないといった手間も増える。
佃煮と称したわけだが、ただ虫取って煮染めれば完成なわけではなく、採取時だけでもこうした一手間があって初めて美味しい食材になるのだそう。
もちろん、当時の子供がそんな気遣い満載の作業を積極的にするわけでなく、大人の指図の元、嫌々ブータレながらの仕事だったのだとか。
その後の調理は地域によって細部が結構異なるようで、まあ、普通の佃煮の調理法を参考にした方が正確性は高いと思う。
ただ、うちの実家の味となると、醤油の他、膨大な砂糖をぶち込んでの甘辛風味が常だったとか。煮染めに失敗すると腹の中が見事に粒砂糖の食感となり。ガリガリと飴を噛んでる気分になるのがご愛敬。
私の幼少期には既に農法自体が現代化して久しく、本当の意味での実家の味は未体験だった。ただ親戚が減反で土地を遊ばせたくないと趣味で続けてた無農薬の田んぼ産のイナゴのお裾分けは存在していて、そちらの味は見事に伝え聞く部分と合致していたりで美味だったと記憶している。
それから結構時代が下り、たまたま都会の某惣菜屋で発見したイナゴの佃煮もあったりしたが……我が親一目見て曰く、『こりゃ輸入もんの紛い物だ』と一蹴していたw
確かに私が見ても一目で解るモドキ品で、下拵え皆無の姿のまま4センチから5センチなサイズの物がギッチリ詰まってる時点で『こりゃもう、イナゴじゃなくてバッタだよ』と呆れた始末である。
それでも一応、懐かしさと怖いもの見たさで味見程度に買ってはみたが……案の定、食べ物認定はしたくないゲテモノ料理の範疇だったり。
キチン質の食感からして、煎り物じゃなくて和え物に近いもんだっしねぇ……
――と、もし異世界転生して和食再現した際には拘りたい部分なのだなあ。
異世界もので通用するかもしれない食レポ案件 がりごーり @10wari-sobako
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