条件その5
「私は人間です」
日曜日、時間はもう夕方である。
居間のテレビには某国民的アニメが流れている。
椅子に座っているマリアが言った。
「私は憂鬱という感情を理解しています。多くの人間がこのアニメを見ると憂鬱になることを私は知っています」
その通り。男もまた憂鬱な気持ちで、体育座りしながらテレビを眺めていた。
「それは違う。このアニメのせいで憂鬱になるのではない」
相変わらず否定から入る男である。
「人間にあってお前たちには無いものがある。それは逸脱の可能性だ。お前たちはプログラムから逸脱した行動をとる可能性はない。しかし、人間には逸脱の可能性がある。つまり、今日という何でもない日が、統計的に見てもほぼ間違いなく代わり映えのない日になるはずの今日が、何かの逸脱により、とてつもなくスペシャルな日になる可能性があった。そして、その可能性の存在は今日という日の終わりとともに消えた。このアニメはそれを知らせる合図に過ぎない。我々人間を憂鬱にさせるものは可能性の消失なのだ」
そう言って男は自分の両膝に顔をうずめた。なんとも情けない姿である。
マリアがそばに寄って、右手で男の背中をさする。そしてマリアは言った。
「私は人間です。あなたの悲しい気持ちを感じることができます。今日はもう夜になってしまいましたが、また明日があります」
「明日は仕事だ」
「仕事でも逸脱の可能性はあります。期待を持ってください」
「仕事で逸脱は嫌だ!!
絶対に良いことじゃない!!」
こうして二人の休日は過ぎていった。
終わり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます