条件その4


「人間は孤独だ。孤独こそが人間の証明だ」

夜の9時。コタツの机にはケーキと紅茶が置いてある。コタツに体をうずめた男が窓の外を眺めながら呟くように話し始めた。

「言語を得てコミュニケーションをとれるようになったが、本質的に人間どうしが分かり合うことなどできない。言語で伝達できる情報は限られている。我々が意思疎通できていると思いこんでいるのは、結局のところ諦めることを学んだからだ。分かり合うことなどできないことを理解しているからだ。だからこそコミュニケーションのハードルを無意識に下げている。伝わらないものは諦めて、伝わると期待できるものだけを伝える。そうやって誤魔化しているに過ぎない。ところが本当に理解して欲しいと思った瞬間に絶望が生まれる。紡いできた絆があるだけ、信じてしまう。全てが伝わると信じてしまう。結果、打ち砕かれる。そして学び、賢くなる。絶望しない方法を学ぶ。誰にも期待してはいけないことを学ぶ。そうして人間の本質に横たわる孤独を知る」

男は大きなため息を吐く。

「もしテレパシーのような能力が人間に備わっていたらと想像する。そうすれば、思うことを全て伝えられる。それでも、おそらく言語化できる内容だけだろう。感情や感覚は伝えられないだろう。喜びや悲しみ、怒り、孤独、痛み。それらを全て共有することは不可能だろう。人間は隔絶されている。属していながら、その本質は隔絶されている。皮膚を剥げば血が溢れる。心を剥げば孤独が溢れ出てくる。人間の本質は孤独だ。つまり孤独でないものは人間ではない」

男は長いセリフを言い終えた後で、残っていたケーキを一気に頬張った。

コタツの横で洗濯物を畳んでいたマリアが言った。

「それはつまり、私が一週間留守にしていた間、寂しかったということですか?」


沈黙。男は何も答えない。


「ご安心ください。来年は家を空けることはありません」


相変わらず沈黙。

二人の年の瀬はこうして過ぎていった。


終わり。

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