04 問題児その2
「見ての通りっすけど」
「服装の紹介を求めちゃおらん」
仕切りなおした
「お前はまだ、将来にそなえて着こなしを修行する必要はないだろう」
黒川は、口をへの字に曲げて、ばっさりと答えた。
「常在戦場」
「ここは学校だ」
一瞬だけ、黒川の目が光を放った。
「凶悪な変質者が学校に侵入してくるようなことが、絶対にないって断言できんのか。刃物持って、生徒とか教師を無差別に切り刻むような奴がよ」
「いや、絶対にとは……」
かつて新聞をにぎわせた、ある学校で起こったおそろしい事件を引き合いに出されて、余村は否定しづらくなった。
「なら、いいじゃねえか。これも自衛手段だ」
「待て待て、自衛と服装は関係ないだろう」
「気は心ってヤツで」
「ごまかされんぞ」
「ねーぇ、センセ」
横から
「そんなに、このカッコ、だめ?」
「だめだ」
「なんでよぅ、全裸じゃあるまいし」
「なにが全裸だ。そんなもの見たい奴がいるか」
「まあオレも、男には見せる気ないけどね」
「見せるな! 話をすり替えるな!」
一応つっこんでおいてから、余村は軽く咳払いをして、態勢を立て直す。
「問題は、お前らがどういう恰好をしているかということじゃない。登下校には制服を着用するという校則を守っていない、ということだ」
ほとんどひと息に述べて、ふうっと余村は肩の力を抜いた。やっと言えた、今日の眼目。いや、ここで安心してはいけない。足元を見られてしまう。
しかも、言えたからといって素直に聞いてくれる連中でもないのである。
麗人は立ち上がると、襟元を直して、どこからか赤いバラの花を自然に取り出し、もてあそびながらポーズをとった。
「オレ、似合わない?」
「似合うかどうかなんて話はしとらんぞ」
「似合うかどうかを聞いてんのよ、今は」
余村は口をねじ曲げて、5秒間沈黙した後、答えた。
「似合ってはおるがな」
途端、麗人はにっこりと笑った。一見しただけでは無邪気としか形容できない、百パーセントの笑顔は、麗人の口のうまさを知っていてさえ、かわいいと思ってしまう。口説かれる女子からすれば、なおさらかもしれない。
「ほーらね。こんなに似合うカッコをしないなんて、もったいないと思わない?」
「……どういう理屈だ、それは」
思わず余村はのけぞってしまった。黒川でさえ、麗人のむちゃくちゃな論法に、目と口をあんぐりと開けている。
「ところで、そろそろ返してくんない?」
「な、何をだ」
「センセのポケットに入ってるもの。オレの大事な切り札なのよね。それがないとゲームもできないし」
余村はほとんど無意識に、ワイシャツの胸ポケットをさぐった。薄く、硬い感触があった。指先でつまんで引き出すことでようやく、ハートのクイーンだと認識できた。麗人はにっこり笑って、反応しそこねた余村の手からカードを取り返した。
「お前、いつの間に」
「それ話しちゃったら、手品じゃないでしょ?」
笑顔のまま、麗人は軽くウインクしてのけた。
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