03 問題児その1
「
「これ、手品師の正装なのよ」
「今はまだ高校生だろうが」
「将来を見据えてんのよぉ、将来を」
「服装を見据えるには早すぎるだろう」
「そんなことないよぅ。オレ卒業したらすぐヨーロッパ行くんだもん」
「卒業するまでは校則を優先させろ」
「だって、学生時代は一瞬だけど、仕事はその先ずっとだよ。今からいろいろ考えて準備しておくのは当然のことじゃないんでしょーか」
「服装は後回しでいいんだ」
「タキシードが似合ってなかったら、手品に説得力持たせられないよぅ。実力勝負の世界だし。センセ、経験ない? たとえば冠婚葬祭の席とかで、普段着なれないもの着なくちゃいけなくて、自分でもあぁ~このカッコ浮いてんなぁ~なんて思って、悪いことしてるワケじゃないのになんとなく肩身狭くて居心地悪いなぁ、なんて」
「まあ、それはな」
「ほーらね。だからオレは、卒業したら即、いつでもマジシャンとして活動できるように、常日頃からタキシードを着こなす修業を……」
「話をすり替えるな」
しまった。より一層にこにこした
木坂麗人は、普段から手品師志望を公言している。
余村はひとつ咳払いをすると、ターゲットを一旦切り替えることにした。
「
「……
「ん」
麗人に肘をつつかれて、ぴくんと黒川は頭を起こした。余村は手を伸ばし、どう見ても眠っていた黒川の顔からサングラスを引き抜いて、机に置いた。今にもかみつきそうな黒川の目つきは、10回見たうちの8回は眉間にしわが入っているという具合で、彼のことをよく知っている者でなければ、声をかけるのはためらわれてしまう。実態は、単に眠たいだけでしかないということを、余村も最近わかってきたところだ。中学ではかなり荒れていたそうだが、高校に入ってからは、これでもかなり「丸くなった」といえるだろう。遥という名前は本名であるが、完全に男であり、当人も名前で呼ばれることをひどく嫌がる。彼を堂々と名前で呼べるのは麗人くらいのものだ。いつも不機嫌そうにしているので、ほとんどの生徒から敬遠されているのだが、それもやはり、眠くてだるいだけなのかもしれない。麗人とは別の意味で、緊張感が欠如している。
「お前の恰好はなんだ」
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