04
結果から言えば、洞窟から出ることができた。
奇妙な金色のリンゴを食べた後、一時間程度洞窟を彷徨っていたら壁に亀裂を発見した。丁度俺の体が通り抜けることができるぐらいの幅ができていた。そこを通ってみると外に出られた。
『やっと外に出られたか』
辺りを見渡してみればそこは丁度昼間狩をした場所だった。亀裂は上手い具合に木々で覆われた岩壁に隠れるようにできていたのだ。
『・・・・・・これから腹が減ったらここに来るか』
どうせ、これからもろくな食事にありつけないのだろうから、あのリンゴは保険としておくのがベストだな。
そう決めた俺は明るくなり始めた空の下、寝床に戻ることにした。
♢ ♢ ♢
俺が金色のリンゴを見つけてから更に日が経った。
相変わらず狩をしながらの生活。それに加えて兄弟からの辛辣な扱い。母も最近は寝たきりの状態が長くなってきている。
そんな中、俺は昼は狩り、夜は腹を空かせて洞窟を訪れる日々を過ごしていた。そして今日も今日とて洞窟へと足を運んでリンゴにかじりついている。
『げっぷ・・・・・・やっぱ、リンゴだけだと味気ないな。しかもそんなに美味くないし』
今日はことさらに腹を空かしていたからリンゴを二個も食った。
『スキルポイントを獲得しました』
リンゴを飲み下した腹を撫でていると、頭の中に例の声が聞こえてきた。
『はあ~・・・・・・・食う度に聞こえるこの声、どうにかならねえのか?』
初めてこの声が聞こえて以来、俺はリンゴを一つ食う度にこの声が聞こえるようになってしまった。さっきも一つ目を食い終わったときにも同じように声が聞こえた。
だが、相変わらずスキルポイントなるものを手に入れても使い道が分からない。食う度に聞こえるこの声に最初はイライラしたものだが、何度も聞かされると慣れるもので、今ではそこまで気にならなくなってきた・・・・・・まあ、気にし始めるとこうして謎の声とは何ぞや?となってしまうわけだが。
『確か今ので・・・・・・・・・三百回目、ぐらか?』
そう、俺はほぼ毎日のようにここにきてはリンゴを食べ、その度にスキルポイントをゲットしている。この世界が一年間が三百六十五日なのかは知らんが、前世でいうところの約一年間、俺は美味くもないリンゴを食べ続けている。
一年だぞ一年。一年間もこんなところでリンゴを食べる日を続けてるんだぞ?それがどう言う意味か分かるか?
そうっ!俺は相変わらず兄弟たち手も足も出ないということだ!どうだ、恐れ入ったか、ハ~ハッハッ・・・・・・・ハァ~
『もういっそのこと、このまま逃げ出すほうがいいんじゃないのか?』
思わずそう愚痴を零すほど、俺はこの生活に飽き飽きしていた。
何が悲しくてたかが犬畜生ごときに見下されなきゃならんのだ。前世だったらワンパンだぞワンパンっ!
・・・・・・・・・すみません嘘つきました。流石に動物を殴る蹴るは抵抗あるわ。
『てか、あのクソ兄弟はともかく、母親みかぎって出ていくのはなぁ・・・・・・』
それが俺がここに残る最大の要因だ。
母は病弱なのか、日に日に弱っていっている。今では狩は俺たちが主に行い、母は住処で寝たっきりのほうが多い。たまに体の調子がいいときは俺たちの狩についてくるのだが、母は動くことなく見守っていることのほうが大半だ。
『・・・・・・もう、長くないのかも、な』
そう思うと、自然と足が母の下から離れるのを止めてしまう。
『所詮は犬、と言いたいが、俺のことを気にかけてくれている訳だし、何より生みの親だしな』
あのクソ兄弟から嫌がらせを受けるたびに咎めてくれる母。大丈夫だと俺に寄り添って眠ってくれる母。そんな母を置いて逃げるなんて、俺には出来そうにない。
『かと言って、母の体を治すこともできないわけだが』
何もできないが、せめて最後の時ぐらい傍にいてやらねば、ここまで面倒を見てもらった恩を仇で返すことになる。
それだけは嫌だ。
だから俺は、多少むかつく思いをしてでも、その時までは母の傍にいようと決心していた。
だがその決意も、あっけなく破られることとなった。
♢ ♢ ♢
その日は少し曇り空だった。
太陽は雲に隠れ、森の中はいつもよりも暗い。視界が完全になくなったわけではないから問題ないのだが、昼間にしては暗い。
そのせいというわけではないのだが、この日は狩の成果が出ていなかった。
『おい、今日はどうなってるんだ?兎どころか他の動物一匹もいないじゃないか』
『落ち着け、まだ時間はある』
『そうだよ』
兄弟たちが狩りをするのを、俺は相変わらず後ろであたふたと追いかけている。仮に出て約三時間ぐらいは経ったか?その間、ネズミ一匹も捕まえてない。
本来ならおかしな状況だ。この森には狩には丁度いい動物が多く生息している。そのおかげで今日まで獲物の収穫なしと言った事態になることはほぼ無かった。
仮に収穫がなかったとしても、それは狩に失敗したからだ。こんな風に捕るべき動物たちがいないなんてことはなかった。
・・・・・・・何か、まずいことが起こっているんじゃないのか?
『なあ、今日はもう―――――――――』
諦めて帰ったほうがいい、そう言葉にしようとしたが、できなかった。
なぜなら――――――――
グオオオオオオオオオ‼‼‼‼‼‼
『ッ⁉』
耳を塞ぎたくなるような、そんな声が森中に響き渡ったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます