03
一体どれだけ滑り落ちたんだ?
気が付けば俺は地面に這いつくばるように伏せていた。どうやら滑り落ちた衝撃で気を失っていたみたいだ。
むくりと起き上がると体のあっちこっちが痛みの刺激が走る。
『イッてて・・・・・・くそ、最悪だ』
痛みはあるが動けないほどではない。俺は周囲を見ると、そこは洞窟だった。ただ幸いなのが、洞窟の中は薄ぼんやりと光る苔のようなモノのおかげで視界が確保できているということだ。
洞窟は奥に続いているようで、道が目の前に開いている。
『・・・・・・とにかく、出口を探すか』
このままここにいても意味はない。そう思い、俺は痛む体を無理やり動かしながら奥へ奥へと歩き始める。
『なんだ、ここは・・・・・・』
しばらく歩くと、広い場所に出た。天井が高く、天井の隙間から月明かりが漏れて広場の一部を照らしている。その場所には――――――
『樹?』
樹だ。樹が一本、天井から差し込む月明かりに照らされていた。
『なんでこんな場所に樹が生えてんだ?』
洞窟の中、当然地面も樹が生えるには無理があるんじゃないかと思えるような環境の中、その樹は悠然と葉を茂らせていた。
ただ、流石に洞窟の中で育った樹だからなのか、それほど大きくない。
精々五、六メートルほど。幹も普段俺が活動している森の中に生えている樹の幹に比べたら細い。それでも葉が覆い茂っているという、なんともちぐはぐな樹だ。
近づいてみると、葉に隠れるように実がなっている。しかもそれは俺のよく知るもので・・・・・・・
『リンゴ?』
そう、葉に隠れていたのはリンゴだった。しかもそのリンゴは俺の知る赤い果実ではなく、金色だった。
『金色のリンゴって・・・・・・これ、本当になんなんだ?』
金のリンゴをまじまじと観察していると、俺の腹がぎゅるぎゅると情けない音を発した。
『・・・・・・・リンゴには変わりない、か』
背に腹は代えられない。俺は意を決して幹に体当たりをしてみる。すると、何の苦労もなくただそれだけでリンゴが一つ落ちてきた。
『おっと!』
慌てて落ちてきたリンゴの真下に体を滑り込ませて実がつぶれないように体全体で受け止める。受け止める瞬間に多少の衝撃が体を走る。痛かったが耐えられるレベルだ。
俺は改めて黄金のリンゴを観察する。見れば見るほど健康に悪そうな感じの色合いだ。
『食べて大丈夫なのか?てか、犬ってリンゴ食べて平気なのか?』
などと躊躇していると、再び腹がぎゅるぎゅると虚しく鳴る。
『ええい!男は度胸だ‼』
気合一発、掛け声とともにリンゴにかぶりつく。
シャキッという歯ごたえとともにリンゴを一口粗食。飲み下した味の感想は・・・・
『・・・・・・・微妙な味だなぁ』
不味いわけではない。かと言って美味いわけでもない。はっきり言って微妙。
『まあ、食べられないわけではないか』
味は微妙だが、食べられる。そう判断した俺はここぞとばかりにリンゴにかぶりついて腹に収めていく。リンゴはあっという間に俺の胃の中に納まった。
空腹は最高のスパイスなどとは言うが、ある意味本当のようだ・・・・・味はやっぱり微妙だが。
『ふう~・・・・・とりあえず、腹は満たせたな』
子犬、しかも他の兄弟に比べれば小柄な俺の体には、リンゴ一つは腹を満たすには十分な量だった。満たされた腹を撫でながら横になろうかとした俺の脳裏に、それは突然響いた。
『スキルポイントを獲得しました』
『な、なんだ⁉』
突然響いた声に俺は、横になろうとした体を慌てて起こして周囲に目を向ける。しかし、目を向けた先には誰もいな。なら今響いた声は一体何だったのだ?
『だ、誰かいるのか?いるなら出てこいッ‼』
広い空間に響くくらい大声で呼びかけてみるも、返事は返ってこない。その間、俺はさらに周囲に視線を向け、注意深く観察するが、やはり誰の姿も見つけることはできなかった。
『一体、今のはなんだ・・・・・・・』
突然響いた声。しかもその声は耳にではなく、頭の中に響いたような不思議な感じだった。
『今の声、なんって言ってた?』
確か、『スキルポイント』だとかを獲得したとかなんとか言ってたような・・・・・
『なんだよスキルポイントって』
スキルポイントって言ったらあれか?ゲームとかでいう、自分の能力値を上げたりするのに使うポイントのことか?
しかし、謎のポイントなるものをもらったみたいだが、どこにもそんなものを貰ったような痕跡はない。
『体のどこかにでも数字が出てるのか?』
などと言いながら体をまさぐってみるが、それらしいものはない。精々己の小さなアレぐらいしかない。
『意味が分からん。何がスキルポイントだよ。どこにもそんなもんねぇじゃねえかよっ‼』
てか、仮にそれがあったとして、それを一体どう使えって話だ。説明もなしにいきなりもらっても使い道が全くわからん。
『・・・・・・・・とことん俺に嫌がらせする世界だな』
腹を満たして満足していたのに、折角の気分が台無しだ。
俺はもう少しだけここで体を休めた後、出口を求めてふらふらと歩き出した。
洞窟はまだ先がある。
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