02
あれからどれだけの時間が流れたのだろう?
俺たち兄弟は成長し、母からの母乳を卒業。それと同時に母が狩ってきたモノで腹を満たすようになった。
とはいえ、まだまだ子犬と言って差し支えない俺たち兄弟は、母から狩の仕方を習いながら日々を過ごしていた。
『そっちに逃げたぞ!』
俺と同じ白い毛並みに、左耳の部分だけ茶色の毛で覆われた子犬。一応こいつが次男だ。
『回り込め!』
今指示を出したのが長男。白い毛並みに覆われた体に対し、尻尾だけが茶色の毛で覆われている。
『はいはい~』
どこか抜けたようなセリフを吐いたのが三男。こちらも同じく白い毛なのだが、両足が茶色の毛になっている。
『ほら、お前も行きなさい』
『わかった』
そしてこの俺が末っ子。母と同じく全身真っ白な毛を持つお犬様だ。まあ、相変わらず他の三匹比べれば体格は未だに小さいのだが。
俺たちが今追い回しているのは野生の兎だ。今晩のメニューはこの兎となっている。
母から教えを受けながら俺たち兄弟だけで獲物をしとめるのが今回母から与えられたミッションだ。
犬が兎なんて食べて、しかも生でなんて大丈夫なのかとも思ったのだが、これが意外となんともなかった。犬の知識なんてほぼ無いに等しい俺からしたら、何が食べて大丈夫なのか、何を食べたらダメなのかなど全くわからない。
最初は恐る恐る食べてみたが、これが意外といけるのだから馬鹿にできない。
(これが野生動物ってやつなのかね?)
そんなことを考えつつ俺も兎狩りに参戦。兄弟たちが追い回す兎の正面に回り込むようにして移動。今まさに逃げようとしている兎の正面に立ちふさがる、が・・・・・
『なにやってるんだよ!』
兎も食われまいと必死なのだろう、華麗なフェイントをかけて俺の脇を走り抜ける。
(やべっ、やっちまった⁉)
まさか兎がここまで素早いとは思わなく、無様に逃がしてしまう。
『もういい、お前はそこでおとなしくしてろ』
長男に非難の声を浴びせられた俺をよそに、残りの二匹が連携して兎を追い詰める。そして、太い木の根元に追い詰めた二匹を囮に、背後から木を迂回して兎の背をとった長男が兎に飛び掛かる。それを合図に残りの二匹も飛び掛かり、見事兎を捕獲することに成功した。
♢ ♢ ♢
時刻は夕暮れ時。森の中に夕日の光が辺りを照らす中、俺たちは狩ったばかりの兎に食らいついていた。
俺たち、と言うか、俺以外の兄弟がだ。
『俺たちが仕留めたんだ、役に立たなかったお前には分けてやらねえよ』
『そうだそうだ!』
こいつらっ!確かに役に立たなかったのは申し訳ないと思うが、それにしたってこの仕打ちはないだろうが!
『お、俺だって少しは頑張ったんだぞ⁉少しぐらい分けてくれてもいいじゃねえかよ!』
『なら、これを分けてやるよ』
そういって長男が口で嚙み切って放り投げてきたのは兎の足。
『ほら、少し分けてやったぞ』
そういってほくそ笑む長男。と言っても顔が犬なのでいまいち表情が読みにくいが、雰囲気で伝わってくる。
(こいつ、調子に乗りやがってッ‼)
しかし、残念なことにこの三匹に喧嘩をしかけても負けるのは目に見えている。なぜならこんなやり取りはもう何度もしているからだ。
実際、最初は喧嘩になって取っ組み合いを演じたこともあるが、案の定ボコボコにされた。
(こんな時、母がいてくれたら・・・・・・・)
そう思いながらチラリと横に視線をずらすと、大きな木の根元で母は横になって眠っていた。
(ここ最近、母は起きている時間が短くなっていいるような気がする)
もともと母は何かの病気なのか、時より苦し気にしている時がある。そんな母助けを求めることも憚られ、俺は我慢するしかない。
仕方なく足元に転がっている兎の足に噛みつく。
(くそ、いつか泣かしてやるからなっ!)
そう誓いながら、俺はちびちびと与えられた食事を時間をかけて食べるのであった。
♢ ♢ ♢
森にいる動物の鳴き声も鳴りを潜めた深夜、俺はむくりと起き上がった。腹が減って眠れないのだ。
(くそが、自分たちだけ満足して寝やがって!)
俺から少し離れた場所で兄弟三人が丸くなって眠っている。母のほうに目を向ければ、母も熟睡していた。
さすがに母には愛情があるのか、俺に渡した肉よりも大きい肉を母に渡していた。流石にこれで自分の親を蔑ろにしているようならガチギレしている。
とはいえ、少しでもいいから俺にもその愛情を向けてもらいたいものだ。
『ああ~クソ、腹減った・・・・・・・・』
ぐるぐる鳴る腹を鎮めるべく、俺はそっと家族が寝る場所を後にする。向かった先は小川だ。幸いにも俺たちが生活している近くに川が流れているので、必要ならここで水を飲んだりしている。
つまりは水を飲んで空腹を紛らわせようということだ。
幸いにして今夜は満月。空には宝石のように星もキラキラと瞬いているおかげで足元も見える。
『ぷはっ・・・・・・しっかし、こんな生活を続けてたら早死にするぞ』
豪快に川に突っ込んだ頭を引き抜いて独り言ちる。このままだったらマジで早死に確定である。
『そもそも、なんだよこれは!どうして俺が犬にならなきゃならんのだ!』
俺は人間だぞ(中身が)、その俺がどうしてあんな子犬程度に舐められなきゃならんのだ、意味が分からん‼
『こうなったら、寝ている間にあの三匹を始末してやろうか・・・・・・・』
などとほざいているものの、流石の俺でもそれは躊躇してしまう。
そんな馬鹿なことを考えていると再び腹の虫が虚しく鳴き始める。
『ああ~ダメだ、全然腹の足しにならん』
やはり水ではどうしようもない。
『仕方がない、何か探すか』
そこらへんに食べられる木の実か何かでもあればいいのだが。
そう思いながらふらふらと森の中に足を向ける。
川から離れて歩き続けること数十分・・・・・・・
『なんもねぇ・・・・・・・』
キノコなどは見つけたのだが、どれも毒々しい色合いをしていて食べようという気さえ起きない。
『野イチゴとかねえのかよ・・・・・・・・ん?』
木々の隙間から壁が見える。いや、これは崖か。
足を進めて近づけば、そこには切り立った崖が立ちふさがっていた。
『・・・・・・・・・はあ、引き返すか』
ここには何もない、そう思って来た道に引き返そうとしたその時、視界に妙なものが映った。
『なんだ、亀裂?』
そこに近づいてみると、崖に顔が入るぐらいの亀裂が走っていた。
少し高い位置にその亀裂が走っている。亀裂からは風が吹いているようで、悲鳴のような音がなっている。どうやら中は洞窟か何かになっているらしい。
なんとなく壁に前足をつけて中を覗こうと顔を近づけた、まさにその時―――———
『うおっ⁉』
前足を押し付けていた部分から亀裂が走ったと思った時には既に遅かった。
亀裂は勢いよく壁に走り、ガラガラと崩れてしまった。
しかも、その崩れた先に俺は勢い余って体を投げ出してしまった。
『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ‼』
更に最悪なこと、崩れた先は斜面になっていた。つまり―――———
『止まってくれーーーーーーーーー!!!!!!』
そのまま暗い斜面を滑り落ちるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます