第11話-1
私はさっきから、春夢が扉を斧でドンドン叩いているのをボーッと見ていた。
斧は前 春夢が倉で本を読んでいたときに見つけたそう。
扉はさっきからビクともしない。
普段運動してないであろう春夢には、既に疲労の色が窺えた。
「一回手止めたら? 体なら十分温まったでしょ?」
「はあ……はあ、っ、続ける。お前こそ寒くないか?」
「……大丈夫だけど……」
「……そうか」
また扉をドンドンし始める春夢。
正直私はお尻が冷えてきていたが、ここで何か言うと春夢は服も脱ぎそうだなと思ったから言わないでおく。
自分の上着を回収して下に敷いた。
……お義父さんお義母さんが来るのを待てばいいのに。てかさっき自分でそう言ってたのに。
せっかちというかマイペースというか……生き急いでるというか。
……。
ちょっとお腹空いてきた。そういえば今何時なんだろう。
二人早く気づいてくれないかな、春夢のためにも。
絶対明日、春夢は筋肉痛になってると思う。
そういえば春夢、沢山の耳飾りにタトゥーって完全にヤ
「寝るな死ぬぞ!?」
「ぐえっ」
どうやらウトウトしていたらしい。
春夢に体を揺さぶられ そんな言葉を掛けられて、私は意識を戻した。
「ふあぁ……そんな、ここが極寒の地みたいなこと言って……」
「でもここで寝たら普通に風邪ひくだろ? ……あとそうなったら俺がお袋に怒られる。つまり俺の精神が死ぬ」
「それは知ったこっちゃないわよ。……あの、離れてくれる?」
「すみません」
起こしてくれたのはありがたいけど……やっぱりこいつ距離感おかしい。
春夢は立ち上がると扉に突き刺していた斧をもう一度手に取り、またドンドン叩き出した。いや置き方怖いわ。
「ねえ、あんたさっき親が来るの待とうって言ってたじゃない。なんで無駄な体力使って……大人しくしてられないのよ」
「大人しくしてられない……って。子どもか俺は」
「いや子どもでしょう」
「……。二人に開けてもらったら『ほら、だからやめろって言ったのに』的なこと言われて倉に入るの禁止されるかもしれねえって思って」
「……!」
「あと普通に俺も風邪ひきそうってのもある。それにこれ以上……。だから自力で出るしかねえなって」
「だからって……さっきから扉に穴一つも開けられてないじゃない。二人には私からも言ってあげるからあんたはもう休みなさいよ」
「次の一撃で開けられるかもしれないのに?」
えっ、と言いそうになって、それすら言えない雰囲気に喉を詰まらせそうになった。
春夢はこちらを振り向かずに扉を叩きながら続ける。
「そうだよ、俺は子どもなんだよ。だから一度成功した方法が他のことにも使えるかもって希望を持っちまう」
ドンッ ドンッ
「あと一冊あと一冊って。あと一日あと一日って。諦めなかったから手に入った情報があった。諦めなかったから……な、仲間……に会えた。だから俺は……次の一手に希望があるなら、やる」
ドンッ ドンッ
斧の音が、よく反響している。
こんなことで何真剣に語ってんだか。バカみたい。
私は溜め息を吐いて立ち上がり、春夢の背中を軽く叩いた。
「一回休憩しなさいよ」
「だから俺は」
「だから」
けど、春夢のその考え方を肯定して信じるんだったら、この扉はこの方法で壊すしかないのだ。
春夢は振り向いた。
私は手を春夢の方に差し出す。
「仲間になってやるって言ってんのよ。斧 貸して」
春夢はポカーンとしている。フリーズ状態。
「……ほ、ほら、仲間が二倍になるのよ、二倍に」
春夢再起動。しかし未だ驚いているような、理解できないとでもいうような顔をしていた。
「ほら、早く」
「あ、はい、どうぞ」
私が催促すると、春夢はようやく私の手に斧を置いた。
持ち手部分の熱に、なぜかちょっと切なくなって。
私は春夢が付けた傷 目掛けて斧を振り下ろした。
「そろそろ交代するぞ」
「あ、うん」
二人で叩き始めてどれくらい経ったのだろう。そろそろ義父母が来てもおかしくない時間だと思うのだけど……実はそれほど経ってないのかも。
これめっちゃ腕痛い。すぐ疲れる。これは私も筋肉痛確定ね。
ドンッ ドンッ ガッ ドンッ ガッ ガッ
春夢と私は顔を見合わせる。
そして顔を綻ばせた。
「よっしゃ、ちょっと進んだ!」
「これ本当にいけるわよ!」
「よし、続けんぞ!」
良かった良かった。
私はちょっと安心して、近くの棚に「よっ」と寄りかかる。
ゴトンッ ガッ ガッ ガッ
……。
「おい今の何の音だ」
「……知りたくない」
春夢はガッ! と扉にまた斧を突き刺し、こっちにツカツカ歩いてくると。
「知りたくないじゃねえよ何やらかしやがった!」
「間違った! 知らない、知らないのよ! なんか棚にちょーっと弾みをつけて寄りかかったら変な音がしただけで!」
「それをやらかしたって言うんだよ! この倉普段使わない薬や呪符とかも置いてるから、……!」
私たちの周りがだんだん白くなってきた。
白いだけじゃない、時々キラッチカッと何かの粒子が光っている。
「何かは分からんがとりあえず袖で鼻と口覆え! あと動くなよ!」
「え、ええ!」
その瞬間私たちは、ブワーッと白に包まれた!
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