第8話-2
「今回はこれだろ! この……なんかの煮付け!」
「……」
「夕食の中で桜さんが作ったのはお味噌汁ですよ? あとそれはカレイの煮付けです」
「う……」
「はは、今朝のは まぐれかい」
「うるせえ」
「……」
「? 桜さんや、大丈夫かい?」
「! は、はい、そうですよね!?」
ずっとあれのことが頭をチラつき、全然会話に参加してなかった。とりあえず同意しておけばいいでしょ。
しかしお義父さんとお義母さんは顔を見合わせ
「桜さん、本当に大丈夫ですか? 今日は早く休むようにしてくださいね?」
「もし風邪の症状が出てるなら言ってね? 普通の風邪でも心の風邪でも私たちはしっかり向き合うから」
思ってたのと違う反応が返ってきた。これ春夢を弄る流れじゃなかったのか。
「いえ、そういうやつではないので! 本当大丈夫ですから! ……でもありがとうございます」
二人ともいい人である。
春夢とも一瞬目が合ったがすぐにフイと逸らされた。
春夢はちびちびと味噌汁を飲んでいた。
お義父さんお義母さんを心配させたくないし、といつもより早めに布団に潜ったが全然眠くならない。
ボーッとしていると昼間見た春夢のお腹に蔓延っていた――千崎家に掛けられた呪いの形が浮かんでくる。
あんな、あんなのがある日自分のお腹に現れるなんて。あんなのに体を蝕まれていくなんて。
きっとあいつは、無理になんてことないように振る舞っているのだろう。
他の人に渡さない限り、その人の気――命を吸い取り続ける呪い。
下手したらもう、春夢の死期はすぐそこまで迫ってきているのかもしれないのだ。
「……ただ、春の夜の夢の如し……」
自分で言ってブルっと震えた。
布団を口元まで上げて目を閉じる。
もう寝てしまおう。眠くないけど。
翌朝、いつも通りお義母さんに起こされる。と、
「部屋の戸にこんなものが挟まってましたよ」
「? ありがとうございます」
お義母さんからそう言って封筒を受け取る。誰からだろう……?
お義母さんが部屋を出ていってから、封を切って中の手紙を取り出す。
『今日の作業は倉でやる。先に行っててくれ。場所は別紙を参考にすること。 春夢』
二枚目を見ると倉への行き方が丁寧に書かれていた。地図もついている。
春夢っぽい配慮だなと思うと同時に、なんで直接言わないんだろうという疑問も出てくる。
よく分からないけれど、とりあえず早くお義母さんの手伝いに行こう。
ああ、あとこれも持っていこう。
「「「いただきます」」」
今日は三人。どうやら昨夜春夢は倉に行っていたらしく、朝食時の今も戻ってきていなかった。
あれ、でも今 倉にいるんなら『先に行ってて』って……?
「今日ってなんかあるんですか?」
「ん? ……特に何もないかな。ああ、春夢の耳飾りに刻まれている術式の点検はしないといけないが」
そういうことか。
「何かあるのかい?」
「いえ、なんとなく聞いただけです。ありがとうございます」
そのあとやっと春夢が来て、四人で朝食を食べた。
ちなみに春夢は今日も私が作ったものを当てられなかった。もはや意固地になっているのかもしれないけれど、いつまでやるのやら。
ということで掃除を終え、春夢の手紙に従って倉に行くことにする。
「一時間は掛からないはずだ。終わったらすぐ向かう」
すれ違いざまに春夢が言った。
「分かったわ」
春夢の地図と説明のおかげで、方向音痴な私でも倉の前に着くことができた。
そもそもここに来てから玄関より先に出たことはなかったし、なんか向こうに道が続いてるなーとは思っていたが、こんな林みたいなところに倉があったとは。やっぱりこの家の敷地面積広すぎる。
生まれて初めて倉をこんな近くで見たけど、大きくてちょっと威圧感がある。ズッシリしてるというか。周りが林になってるのもあるかもしれない。
「ん?」
戸の前に何かある。黒くて丸い。
そっと近づいて見るとそれは、丸まって寝ている黒猫だった。
「野良の子かしら。かわいー」
撫でたい! けれど人馴れしてない子だったら逃げちゃうかも。
その場によいしょとしゃがみ込む。
……そういえば春夢、蛙がかわいいとか言ってたわね。私は両生類とか爬虫類をかわいいと思ったことないな。
小さい頃ナメクジに塩を掛けてみたら衝撃映像を見る羽目になってしまったことはあるけど、それが原因かしら。そもそもナメクジって何類?
「あ、起きた」
猫が目を覚まし私の方をチラッと見る。と、
「キシャアアアアアア!」
「ご、ごめんねごめんね!? 離れるから落ち着いて!?」
めっちゃ威嚇された。
急いで距離を取るが、猫は威嚇の姿勢のまま。ど、どうすれば。
「ひ、昼寝? の邪魔してごめんなさい! 私、あなたに危害を加えようとかそんなこと考えてないあつっ! ……え?」
あつい……? 今一瞬、熱くなかった……?
黒猫は小さく息を吸い込むと、器用にフッと口をすぼめて吹き出した。
その口から出てきたのは……火の玉!?
火の玉は私の近くの雑草に当たると、小さな音を立てて数秒燃えた。その跡には何も残っておらず……。
私はゆっくり猫の方を見る。
その口の隙間からは火の灯りがチロチロしていて……。
何この猫、普通の猫じゃない!
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