第6話-2

「まだ足痛いんですけど。痣になったらどうすんのよ」


「こっちの台詞だそれは」


 お互いの顔を見てお互い溜め息。


 昨日春夢に呼び出された時間と同じ時間に私はまた呼び出され、春夢の部屋に来ていた。


「まあいい、俺が今までやってたことを教えるから座ってくれ」


「……分かったわ」


 私は昨日と同様に設置されていた座布団に座った。春夢も昨日と同様向かい側に座る。


「まず最初に俺の意思を言っておく」


 春夢はこちらを真っ直ぐ見た。


「この呪いは俺の代で終わらせる」


 強い意志を感じる目と声音に、私は思わずぎゅっと拳を握った。





「この呪いを掛けたやつは相当な術者だ。今より昔の方が霊力も術の完成度も高いってのもあるが、それを抜きにしてもな。呪いが相手にどれくらいの効果を及ぼすかは、言ってしまえばゲームと同じだ。レベル、ステータスが離れているほどより呪いが効くようになっている。だから千崎家は呪いを解くのを諦め、寿命を延ばすことに専念している」


「まあ……本当に厄介なものなのね」


「だからみんな諦めたんだろ、呪いを解くのは。けど」


「けど?」


「……ほら、お姫様の指に針なんかが刺さって眠るって話、あるだろ?」


「ええっと……『眠り姫』?」


「それ。それって最初は姫の誕生パーティに呼ばれなかった魔女が怒って姫に、針が指に刺さったら死ぬって呪いを掛けるんだ」


「あれ、違う呪いじゃない」


「その場にいた他の魔女たちは呪いを解くことができなかった。だが一人の魔女がその呪いを『針が指に刺さったら』に変更したんだ」


「変更!? そんなのアリなの!?」


「ああ、実は呪いを解除するよりも呪いを書き換える方が簡単で、しかも『眠り姫』が示しているように書き換えなら格上相手にも通用する……はずだ」


「えっ、じゃあ」


「俺もこの呪いをできるだけ無害に書き換えようと思っている。過去に書き換えをしたことも無いことは無いはずなんだがまだ文献で見たことはない。単純にやらなかったのか……やったら周りに呪いが広まったり不幸が起こったりしたのかもな」


「えっ」


「まあそのときはそのときだろ。俺らの失敗が次へ繋がっていけばいいし……」


「ちょ、考え直さない? 危なすぎない?」


「とにかく、お前にはとことん付き合ってもらうからな!」


「……あーもう! 分かったわよ! 協力させてって言い出したのは私だしね! ……で? 私は何をすればいいの?」


「それなんだが……ちょっとこれを見てくれ」


 春夢はそう言って手近にあった本を渡してきた。


 適当なページを開いてみる。これは……


「植物図鑑……?」


 説明文は何て書いてあるのか全然読めなかったけれど、左側のページに葉っぱらしきものが描かれていることは かろうじて認められた。


「そうだ。前も言ったが医術と呪術の関係は深い。薬の効果を術によって高めたり、術の効果を薬で支えたり、なんてことも昔はよくあったらしい。……俺の呪いも、それに類する物だ」


「へえ、掛けた人とかは分からないのにそれは分かってるのね」


「いや、まあ……見りゃ一発だからな」


「一発」


 すご。専門的に見ればそういうのはすぐ分かるのだろうか。


「じゃあ、その呪いに対抗できる植物をここから探せばいいの?」


「いや、俺らがやるのは書き換えだ。書き換えにはその呪いで使われた術、薬草も使われた場合はその薬草も必要になる。お前にはそれを探してほしい」


 なるほど。


「でも私、その薬草の形とか特徴とか知らないわよ? ここの文章も読めないし……」


「解読に関しては後でいいのをやるよ。で、形は――」


 春夢は立ち上がり机の方に移動した。

 ペンを走らせる音が聞こえ始めたため、私も立ち上がって春夢の隣に並ぶ。


「葉がこんなで……花が……よし、こんな感じだ」


「上手くない? 見たことあるの?」


 簡素ではあるが特徴は掴みやすい絵だ。


「……本物は見たことないけどな」


 言い方からして文献の中にでもあったのだろう。


 ふむふむ、周りがギザギザしている葉っぱに薔薇のようなそうじゃないような花……。


「……?」


 あれ、なんかどこかで見たことあるような……?


「……ねえ、この花の色は分かる?」


「色? ……多分青系統だろ。ほら、初日に言ったろ、『呪いに掛かってから目もこんな風になりました』って」


「あーそういえば」


 呪いに使われた植物の色も呪いに反映されるのね。


 何気なくじーっと春夢の目を見る。

 春夢は怪訝な顔をこちらに向けた。


「な、なんだよ」


「? 別に? どんな色のお花なのかなと思って」


 じー……うーん、やっぱり見たことないかも。


 春夢はフイっと紙に視線を戻すと頭をガシガシ搔き、絵の隣に『青色』と書き加えた。それは書かなくても良くない?


 しかし春夢はうんうんと大袈裟に頷くと


「じゃ、この紙はやるから。午後は居間で作業な。解散」


 そう言って、私と目は合わせず部屋を出ていってしまった。


 なんだあいつ。トイレ行きたかったのかな。

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