第6話-1

 翌日。


 今日は四人揃っての朝食だ。やっぱり空席がないとパズルのピースが全部はまっているみたいで落ち着くというか。


 皆でいただきますをして、私はお味噌汁を少し啜ってからお義母さん作の綺麗な形の卵焼きをぱくり。作っている様子を見て早く食べたいと思っていたのだ。ふわふわ、だけどしっかりとした食べ応えがあっておいしい。


 と、春夢が箸を置いて


「き、今日の卵焼き、いつもと違わないか?」


 そんな、いつかもあったようなことを言った。

 これに返すのはやはりお義父さん。


「いつものすーちゃんの味だけどねえ。おいしいよ、すーちゃん」


「ありがとうげんさん」


「……」


「……春夢さん? 箸が止まってますよ」


「あ、おう」


 若干顔を赤くして味噌汁を呷る春夢。


「桜さんは今日はご飯を炊いたんだねえ。とってもおいしいよ」


「ブハッ」


 春夢が吹き出した。一気に飲むから……。


「一気に飲めばそうなる可能性があることは分かっていたでしょう……大丈夫ですか?」


 私が思ったようなことをお義母さんに言われた春夢はまだ咳き込みながらも「大丈夫だ」と言った。


「お義父さんまた正解です! ここまで来ると何かしらのトリックがないと……」


「変態みたいだよな」


 まだ涙目の春夢がほうれん草のおひたしをつつきながら言う。


「ちょっと言い方!」


「はっはっは、いいよ桜さん。確かに何十年もすーちゃんの料理を食べてきてるとはいえ不自然だものねえ。……まあ言ってしまえば簡単なトリックだよ。すーちゃんじゃない『気』を桜さんの料理から感じ取っているだけだからねえ」


「簡単じゃねえじゃねえか」


 春夢がそんなそんなツッコミを入れるがそもそも『気』って何ですか。

 気持ちが顔に出ていたのであろう、お義父さんは私の顔を見ると微笑み、説明をしてくれた。


「気っていうのはね……力の源、オーラとでも言おうか、誰しもが持っているものなんだよ。その人が何かに意図的に力を加えると、そこに必ず気が移る。匂いが移るようにね。私もなんとなく感じ取っている程度のものだが……すーちゃんの作った料理にはすーちゃんぽいオーラが掛かっているんだよ」


「へえ?」


 お義母さんの作った卵焼きをもう一つ食べて、自分が炊いたご飯を食べてみる。分からん。

 お義父さんはそんな私を見て笑った。


「術の練習を沢山すればできるようになるかもしれないけど、これはなかなかねえ。春夢も未だにできていないようだから」


「なっ」


「そうなんですね」


 小さい頃から術式の練習をしているであろう春夢すらできないなら私には無理だろう。


 そして急に話題が向いて自身の未熟さを指摘されたからか春夢は真っ赤だ。可哀想に。


「ああそうだ、げんさん、鬼門に使用する用のお札なんですが……」


「うん」


 義父母がお仕事の話を始めたので仕方なく春夢の方に視線をやる。


 未だに少し頬が赤い春夢と目が合い、やつは「なんだよ」とでも言いたげに眉間に皺を寄せた。

 思わずフッと嗤うと春夢は無言で私の足を蹴ってきた。


 当然蹴り返したら足蹴り合戦になってまたお義母さんにばれ、私たちはまた怒られる羽目になるのだった。

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