「祝杯」①
カイラの怒鳴り声は喫茶店内にも当然聞こえており、何事かと店員や客が外の様子を見るべく、何人か外に出てきた。そして駐車エリアの惨状を見た彼らは戦慄し、パニックに陥った。
「あーあ、またうるさくなってきたな。まぁいいや、用はもう済んだことだし、なっ!」
周りの声をうるさそうにしながら、カイラは既に息絶えた関戸の顔を雑に蹴飛ばして、軽く転がした。死者に対するこれ以上ない冒涜行為を、カイラは嬉々としてやっていた。自分にとって殺したいくらいムカつく人間に対しては、とことん何をやってもいいという思考をしているカイラだからこそ可能な、狂った行動である。
大量の血を流したまま微動だにしなくなった関戸を見て、彼が死んでいることに気付いた周りの人たちは、さらに騒ぎを起こし始める。うるさいなぁとカイラはそれらの声を煩わしく思い、喫茶店から立ち去ることにする。
「よし、これで今日殺す予定だった奴らは全員死んだな。この手でぶち殺してやれた……。このヤニカス三人のせいで、俺は警察に逮捕される羽目に遭った…。そのことを思い出す度に胸糞悪い気分にさせられてきた。
そんな日々がついに、今日で終わった。諸悪の根源のあいつらを殺したから」
拳を握りしめて、それを見つめるカイラ自身がふるふる震えだす。それは歓喜に打ち震えるものだった。
「最高だ…!ずっと殺したいと思っていたゴミクズどもの命を、自分の手で終わらせるのは、最高に超気持ちい!快感過ぎる!!何だこれ!?ムカつく奴を復讐で殺すことって、こんなにも気持ちよくなれるものなのかよ!!」
今日初めて復讐で人を殺したカイラ。それもいきなり三人も。そんな常軌を逸した、猟奇的とも言える凶行をしたにもかかわらず、カイラはひどく喜んでばかりである。
精神がまともな常人であれば、日に三人も殺してしまった後、少しは後ろめたい気持ちになったりするはずだが、カイラからはそんなものは一切感じられなかった。
このことから桐山カイラは既に人として壊れてしまっていると言える。彼を知らない者たちは誰もがそう思ってしまうくらいに、カイラは引き返せないところまでいってしまっていた。
「さぁもう帰ろう。朝早くから動きっぱなしで、いい加減くたくただ……。
そうだ、人生で最初の復讐殺人を達成した記念に、今日はたくさん食ってたくさん飲むことにしよう!彩菜も部屋に飲んで、一緒に飲み明かすのもいいなー!」
とても人を三人も殺した後とは思えないテンションで、そんな提案を口にするカイラだった。
その後カイラはさっき自分で提案した通り、通り過ぎていったスーパーのもとへ逆戻りしていった。自分の好きな食べ物やお酒を中心に何を買ってやろうかと考えながらスーパーの駐輪場へ向かったのだが、カイラはその前で足を止めてしまう。
理由は彼が駐輪場を目にしたところ、薄毛の男性がそこで紙巻き煙草を吸って、煙を出しているのが映っていたからである。
「……何だよ、これ。どうしてこんなところで煙草吸って、副流煙をまき散らしてる奴がいるんだよ……クソッタレぇ!」
今日で三度目となる副流煙の臭いに、カイラはブチ切れながら駐輪場へ向かっていく。そして駐輪場の手前で自転車を止めてから、喫煙している薄毛の男性に怒鳴りつける。
「――おい!!何こんなところで煙草吸ってやがんだよ!?しかも紙巻きのを吸って、有害な煙まき散らしやがってよぉ!?」
「………あ?何だお前?何訳の分からないこと言って――」
「うるせぇ!さっさと煙草を消せ!そんでさっさとここから消えろ、ヤニカスが!」
薄毛の男性に対して一方的に怒鳴って指図するカイラ。この時カイラは相手にチャンスを与えていた。これでも彼は相手に慈悲をかけているつもりだった。
今日はムカついていた人間を三人も殺したということで、いくらか気分が良いカイラ。そこで彼は目の前の喫煙者が自分の命令に従ってすぐに消えるのなら、副流煙を吸わされたものの見逃してやることにした。
「いきなり突っかかってきて、何偉そうに指図してきてんだよ、クソガキが!消えるのはお前の方だろ、カス!」
しかしそんなカイラの慈悲は、無駄に終わる。薄毛の男性は唾と副流煙をまき散らしながらカイラにそう怒鳴り返すのだった。
「―――あっそ。じゃあ死ねよゴミクズ」
「はぁ?お前が死―――(グサッッ)――にぇがう゛ぁ…!?」
怒りのあまりにカイラは表情を消すと、一言かけた後慣れた動作で、薄毛の男の首をナイフで刺した。
「あ゛……え゛…?」
喉を深く刺し突かれて血がだくだくと流れるのを感じながら、薄毛の男はただ口をパクパクさせていた。突然の事過ぎて何も言葉が出てこない様子だった。
仮に言葉が出てきたとしても、喉を正確に刺し潰されている為、言葉を発することはもう出来なくなっている。
「この地域の民度はマジで終わってるな。こんな明らかに煙草を吸っていいわけない場所で平然と煙草を…しかも副流煙がよく出る紙巻き型のを吸うヤニカス野郎がいるんだからよぉ。以前からずっといたもんな。いつもぶち殺したいって思ってたわ。だから今日殺したんだけどな」
そう言って、喉に刺したナイフを引き抜いて、薄毛の男の腹を思い切り蹴りつけて、駐輪場の端へ追いやる。薄毛の男は喉から血を大量に流し、ぴくぴく痙攣させて藻掻いていた。彼が吸っていた煙草は、彼の血で濡れてすっかり消えていた。
「ふん、余計に殺させやがって、馬鹿が」
死にかけの相手に対し、カイラは無慈悲にそう告げるとそのままスーパーへ入っていった。
ついさっきまた人を殺したにも関わらず、大量の酒や食品を平然と買い漁っていくカイラ。念のため持ってきておいた財布でかごに入れた物を全て購入し、大きめのリュックに買った物を詰め込んでいった。
そうしてスーパーから出て駐輪場に戻ると、その端に倒れてもう動かなくなった薄毛の男が視界に入る。するとカイラの背後から悲鳴があがる。振り返ると自転車を止めにきた老婆がその死体を見て体を震わせていた。
「ああ、自転車止めようとしてるのね。ごめんよ、すぐ退くから……ささ、どうぞ」
自分の自転車を出してから道を譲るカイラだが、老婆はそんな彼を異常と捉えた。目の前に血を流している人間がいるのに平然としているカイラがおぞましく思ったのだろう。
カイラはそんな老婆を素通りして、さっさと自宅へ帰るのだった。
*今さらになりますが、ここから不定期更新となります。
本作が読まれてる全然読まれてない、面白い面白くないなど関係無く、途中でエタることなくきちんと終わらせると、保証します。
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