「被害者面していた者たちへの復讐」⑧
「――ざけんじゃねぇぞ!?てめぇが先に路上喫煙なんてクソッタレなことしてたくせに!それにあの時の蹴りで、てめぇに傷害が残ったりもしなかっただろ?せいぜい痣が少しできただけだろうが…!
そんな小さなことで被害者面して、警察に被害届を出して、そのせいで俺の罪状が増えて……!」
二年前に自分が通る道の側で路上喫煙をしていた関戸に対し、カイラは怒りや憎しみを再燃させる。そして彼に対する殺意を、彼との距離を詰めるごとに膨れ上がらせてもいた。
あの日カイラは、路上喫煙をしていた関戸に蹴りを入れたという暴行事件を起こしたのだが、関戸がその時負った傷は全く大したものにはならなかった。思い切り蹴られたものの、少し大きめの青痣ができた程度で済み、骨や関節に支障をきたすような大事には至らなかった。
なのに事態を大げさに捉えて、被害者ぶってカイラを犯罪者扱いした関戸に、カイラはひどく腹を立てて、いつか殺したいなと思うようになった。
「一度ならず二度までも…!いや、てめぇの場合はもっとか?三度四度……何度も、そうやって我が物顔でふてぶてしく、歩道通る人の前で喫煙していたんだろうな?
そして…てめぇはまた俺にその有害な煙を吸わせようとしてんだな……殺す、ぶっ殺す!!」
怒りと憎しみで顔を歪ませているカイラは自転車を歩道に乗せて、猛スピードで道を下っていく。そして喫茶店の駐車エリアでふてぶてしく路上喫煙をしている関戸に、自転車で突っ込んでいった。
「何度も俺が道を通る側で、喫煙してんじゃねーよ!ヤニカス老害がっっ」
そう叫びながら自転車で突っ込んでくるカイラに気付いた関戸は、手に持っていた煙草を思わず落としてしまう。そしてすぐにその場から立ち退こうとしたのだが、老いのせいか動きが鈍い。
結局避けることが出来ず、関戸は自転車による激突をモロに受けてしまった。
ドガッッッ 「がぐわぁああ…!?」
近くに支えが無かった為、関戸は為す術なく叩きつけられるように地面に倒れてしまう。
「はぁ、はぁ……。おい、これで終わりだと思うな?殺す前にもう少しだけ、存分に痛めつけさせろ」
息を切らしながら自転車から降りたカイラは、怒り心頭のまま関戸に詰め寄って、仰向けで倒れている関戸の顔や体を蹴りはじめた。
「このヤニカスが!老害がっ!てめぇみたいなカスに年金が支払われているのかって思うだけでも、腸煮えくり返りそうなのに!その年金がてめぇのタバコ代になってたかと思うと、超胸糞だよ!!」
蹴りが顔面に入って、関戸の眼鏡が割れる。さらにつま先が腹に突き刺さり、内臓にも入ったのか、血と胃液が口から吐き出される。
「しかもだ!てめえは国民の年金で買ったそのタバコを、こういう喫煙所外…人が通るところ辺り構わずで吸って、有害な煙をまき散らすことまでしやがるもんなぁ!?もう最悪以下のクソだわ!
マジでふざけんな!?過去に俺も嫌々支払ってた税金が、てめえみたいな腐りきったゴミクズ老いぼれどものタバコ代になってたのかと思うと、超絶クソ胸糞だよ!!クソッタレがぁ!!」
「ごぐっ、ばげらっ、ぐぇぐぎぃ……っ(さ、さっきから何なんだこいつは!?言ってること何一つ分からん…っ 老害?この俺がか?ふざ、けるな…!お前の方がよほど悪人だろうがっ)」
ガンゴンと顔面…額や目、口などを蹴られてる間、関戸は飛びそうになる意識を何とか保ち、先程から意味の分からないことを言って暴力を振るってくるカイラに、怒りと恐怖をない交ぜにさせていた。
関戸も藤井と同じ、自分がどうして突然こんな男に暴力を振るわれて罵声も浴びせられなければならないのか、全く理解出来ずにいた。そして自分が毎日当たり前のようにやっている路上喫煙が原因で、この後殺されることになろうなど、当然予測できるはずもなかった。
「はぁ、はぁ……!おい何だその目は?まさかてめぇが何でこんな酷い目に遭ってるのか、全く覚えがないって言いたそうな面だな?
はっ、もう救えないレベルまで腐ってんだな。呆れてきたわ。てめぇのその、モラルが丸っと抜け落ちて腐りきった脳みそに、説明なんかどうせ無意味だろうな。
だから全部省くことにした。ただ俺に痛めつけられて十分苦しんでから、死ね」
そう言うとカイラはリュックからサバイバルナイフを取り出す。それを目にした関戸は衝撃のあまり息をするのも忘れてしまう。
このタイミングでそんな刃物を出すということは…どう見ても食品調理に使う物ではないその刃物を自分に向けているということは…
(は?は??何だその刃物は……!?こいつまさか、それで俺を、刺すつもりか?まさかそんな、馬鹿なことを……する、気なのか…!?)
突然の異常事態が連続で舞い込んできたことで、関戸の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。しかしその中でも特に今が異常過ぎて、見過ごすことが出来なかった。
カイラが危険な刃物を持って、殺意もこちらに向けているのだから、パニックに陥ってる場合にはいかなかった。
しかし逃げ出そうにも、カイラに散々痛めつけられたことで関戸には起き上がる力すら発揮出来ずにいた。
「~~ふ、ふざけるなぁ!どうして俺がこんな目に遭わされてるんだ!?誰か、このイかれた若造をどうにかし――――(グサッッ)―ろごおふぅ……っ」
地に手をつけて体を震わせながら周りに助けを求めようとした関戸だったが、その途中でカイラに胸倉を掴まれて無理やり立たされて、そして、その腹部にサバイバルナイフが深く突き刺されるのだった。
「が…!?ぉぷっ」
「うわっ、汚ねぇ!?俺にその汚れ腐った血をかけてんじゃねーよ、気持ち悪い!」
そんな理不尽な怒りをぶつけながらナイフを引き抜くと、再びドスッと強い力で関戸の腹を深く刺す。
「定年退職したんならさっさと死ね!働かずにただ外で俺や誰かに受動喫煙させるような老害なんか、この世に必要無ぇんだよ!」
罵声と同時にナイフを引き抜いて、またお腹目掛けてグサッと刺す。
「さっさと死ねゴミクズ老害が!そのヤニ臭い口を永遠に閉じて無様晒しながら死にやがれ!!」
三度ナイフを引っこ抜くと、最後に関戸の顎にアッパーカットを入れて口を無理やり閉じさせて、胸倉も無造作に放して関戸を地面に放り捨てた。
腹部から夥しい量の血を流している関戸の心臓は、既に停止していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます