「祝杯」②


 部屋に帰宅した後、カイラは彩菜の携帯に電話をかけて、今夜自分の部屋で食事しないかと誘ってみた。返事は「行く!!」の一言だけで、夕方になると彩菜が訪問してきた。


 「へぇー、三人とも殺せたんだ?よかったね!」

 「それな!ただその後、お祝い酒と食い物を買いにスーパーに行ったら、その駐輪場でまたヤニカス野郎がいやがったんだよ。それで俺が煙草を消してさっさと立ち去れって注意しても、そいつは言う通りにするどころか、逆ギレしやがったんだ。これはもう有害なゴミクズだってんで、そいつもぶっ殺してやったった!ざまぁねーぜ!」

 「そんなこともあったんだー。カイラのお陰でまた一人、人間のクズがいなくなったね!」


 二人とは関係が一切無い第三者が今の会話を聞いたら、さぞ困惑して恐ろしくも思っていただろう。人を四人も殺したというシュートの話を、彩菜もまた嬉しそうに聞いていたのだから。

 そこは既に狂った空間と化しているのだが、当の二人は食卓にたくさんの料理とお酒(彩菜が持ってきた高級のワインもある)を並べて、それはそれは楽しい宴を行っていた。



 「――そうそう。今日はワインの他にー、カイラに嬉しい知らせも持ってきたよー!」

 「嬉しい知らせ?」


 ディナーを終えて食後のデザートとワインをいただいてる中、すっかり酔いが回っている彩菜がいきなりそう切り出す。


 「カイラが殺したいと思ってる、学校の同級生たちの居場所が分かったんだってー、えへへ」

 「――マジか!?」


カイラはホイップクリームたっぷりのロールケーキを食べる手を止めて、酔っ払って笑顔の彩菜に目を向ける。


 「今朝ねー、私のSNSアカウントにねー、DMがきたのー。覚えてるー?人探しの委託業者の桜井さんー」

 「覚えてるも何も、昨日話に出てた奴だろ?俺の人探し依頼を受けてくれてる。え、もうあいつら…俺が復讐殺人しようと思ってる奴らの居場所を特定したのか?全員!?」

 「んーん、全員はまだみたーい。今日の時点で分かったのは14人中3人だけだってー」

 「そうか…。で、その3人は誰なんだ?」

 「んーとねー。DMチェックするねー」


 酔いが回ったことで舌っ足らず口調となった彩菜は、携帯電話からSNSを起動して、桜井とのDM履歴をさかのぼっていく。そして目当ての内容が出たところで、それをカイラに見せる。そこには3つの人物名が書かれていた。


 外崎洋太

 河地由良

 水野博史


 「外崎に河地、それと水野もか。三人とも、中学校の同級生だった奴らだな。中学を卒業した後、ふとした時にこいつらにムカついたことされたことがフラッシュバックして、胸糞悪くさせられてきたわ。今も……ああくそ、ムカついてきた!」


 そんな怒りの声とともにカイラはテーブルをガンと殴りつける。そのせいでそこに置いてあったコップが倒れて、ワインでテーブルが汚れてしまう。


 「あ……ごめん彩菜!服にワインが…!」

 「あー、ワインでびしょびしょだー!えへへー」


 同じく彩菜のコップも倒れて、ワインが彼女の服にかかってしまった。我に返って謝るカイラに対し、彩菜は怒るどころか何故か楽しそうに笑うだけだった。


 「気にしないでいいよー。カイラはその人たちのこと思い出すだけでそんなに怒っちゃうくらいに、その人たちのことムカついてるんだよねー?」

 「ああ、その通りだ……。どいつもこいつにも、散々クソムカつくことされたんだよ。これまで何度も何度も、『あいつら殺しにいきてーなぁ』って思ったことか!」

 「うんうん。じゃあやっと、殺しに行けるね!」

 「ああ!ついに殺すことが出来る!

 人を殺す権利を与えてくれた『殺人許可証』と、殺したい奴らの居場所を教えてくれた桜井さんって人も。そして何より、俺に代わって人探しの依頼金を出してくれた彩菜には、感謝しきれねーよ!ありがとう!」

 「んー?えへへー、どういたしましてー♪」


 そうして二人でしばらく笑い合った後、カイラは三人の住所を確認しはじめた。


 「なるほど、全員大阪住まいのままだったか。さすがに市や区はバラバラだけど、これなら対して苦戦せずに済みそうだ」

 「三人とも大阪出身ってことは、カイラも?」

 「ああ。俺は生まれは長野県で、育ちは大阪だったんだ。色々あって今はこんなクソッタレなところで暮らしてるけどな」


 外崎も河地も水野も、カイラと同じ中学を卒業している。つまりは四人とも同じ大阪育ちでもあった。そして三人とも、仕事の活動地は変わらず大阪府内となっている。


 「外崎は大阪市の浪速区、河地は大阪市住之江区、そして水野が堺市の北区か。今日みたいに一日で全員一気に殺すってのは厳しそうだなー。一日一人ずつになりそうだ。つまり、次からは泊まりになりそうだなー……」

 

 カイラが泊まりという言葉を口にした瞬間、彩菜が目の色を変えて彼に詰め寄ってきた。


 「泊まり!?出張!?じゃあ、じゃあ!私も一緒に行きたい!カイラと一緒にお泊りするぅ!」 

 「え、マジで?俺は全然オッケーだけど、彩菜は俺が殺しに行く時どうするんだ?一緒に殺しに行くわけにはいかないし。あと、宿泊費も……」

 「大丈夫ー!私はカイラの殺人のサポートをするだけで、私が表立って人を殺したりはしないから、安心してー。

 あと、お金のことは心配無いって言ってるじゃーん!必要なら遠慮せずにどんどん頼っていいからね。ていうかもっと頼ってよぉ」


 酔いが回って上機嫌となった彩菜はそう言いながら、カイラの方にしなだれかかってくる。

 

 「私はカイラが気持ちよく復讐出来るよう、何だって支援してあげるつもりだからー。殺人のサポートもバッチリ!してあげるからぁ」

 「そうか。マジでありがたいって思うよ。それじゃあ明日早速、大阪へ行こうか」

 「うん!一緒にお泊りも楽しもーねー!」


 そうしてカイラは次の復讐の為に、彩菜とともに大阪へ移ることを決意した。それに当たって彩菜が早速、大阪のホテル宿泊の手配もしてくれた。

 

 しかしその後、酔いが回ったことが原因か、甘えん坊と化した彩菜がカイラを押し倒して、性行為までねだりだしたので、カイラも我慢出来ずに彼女にその性欲を発散してしまった。

 二人は夜が更けるまで、互いに情欲を発散させたのだった。

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