「さらなる検証」②
「………。おい、俺に石をぶつけたのは、お前か?」
周りを見回してカイラの姿を捉えると、ヘルメットを被っている男が怒気を孕んだ声で問いかける。オートバイから降りてヘルメットも外して素顔を露にする。オールバックの金髪の細目…二十代後半と思われるその男は、怒りを露にして睨みつけてくる。
「だったら何だっつうんだよ騒音野郎。オートバイから耳障りでうるさい音を何度も鳴らしやがってよぉ。迷惑だっつうんだよクソが」
今回の相手は多人数。オートバイを鳴らしていた金髪の男以外にもその仲間が複数人いる。誰もが若い男で柄が悪い見た目をしていることから、大抵の人は一人で彼らに対して噛みつこうとは思わないだろう。
しかし、この日のカイラは柄の悪い集団を相手にしても全く退かずにいた。普段の彼ならば、こういう多人数を相手に考えなしにつっかかることはしない。もっと言えば、昔の彼は喧嘩早い性格ではなかった。苛立ちこそはすれど手を出すのは得策でないと言い聞かせてぐっとこらえるタイプだった。
ところが、年を重ねていくにつれてそういった理性は薄まっていき、すぐに怒りを出すようになってしまっている。
「んだとぉ?一人で何イキってんだよ。俺のオートバイにケチつけてんじゃねーぞ、ごら」
カイラの言葉でさらに腹を立てた相手は、ポケットに手を突っ込んだまま凄んだ顔でカイラに近寄ってくる。仲間たちもそれに続いてカイラを威圧していく。
「こっちに迷惑かけまくってんだから迷惑だって教えてやったんだろが。あと、人が通るところにオートバイ置いてんじゃねぇよ。邪魔で通りにくくなってんだよ。さっさとどかせろ。そしてそのまま消えろ全員」
「何お前、正義の味方気取りかよ?いっちょ前に注意してきてんじゃねーよ。てかそんなことで俺に石投げてきやがったのかよ。喧嘩売ってんなお前?」
元から柄が悪いのと複数人でいることから、相手のオールバックの金髪はカイラに対して全く怯むことなく、それどころか今にも殴りかかろうとしてすらいた。
「こっちは昨日もてめぇらみたいなクズと遭遇して、ずっと苛々してんだよ。うぜぇんだよ。退かねーならさっさと死ねよ、人間のクズどもが!」
自分が言った通りに全く動こうとしないオートバイ集団に、カイラも怒りを露にして、中指を突き立てながらそう怒鳴った。
「るせぇ!一人だけのくせにピーピー喚いてんじゃねーぞ!マジで喧嘩売ってんならやってやるぞ!?」
オールバックの金髪はヘルメットを地面に叩きつけると、カイラに詰め寄って殴りかかった。仲間たちも「やっちまえ」と囃し立てている。
(さすがにこれは分が悪い……。けど、もう知るかよ。こっちはとっくに人生終わったつもりでいるんだ。こうなったら目の前にいるクソムカつくこいつらをぶん殴ることだけ考えてやる…!)
迫りくる男を前に退くことなく、カイラは躍起になって突っ込んでいった。相手の額の生え際を思いきり掴むと男は痛みに怯むも、すぐに反撃に移る。カイラの胸倉を掴んで引き寄せて、顔にパンチをくらわせる。
「おらぁ!この、ヘボ野郎がっ!一人のクセにイキってんじゃねぇぞ!」
「ごふっ ぐっ くぶ、ぅ……っ」
カイラは顔と腹、胸部分を殴られて、地面に転がってしまう。相手の仲間たちがそれを見て嘲笑い、中にはジュースの中身をかける者もいた。
「一人でカッコつけようとしておいて、だっせー!」
「自分が強いとか勘違いしてるガキかよ!」
「俺らを退かせたいなら、警察官にでもなってから出直せよ!」
仲間たちの嘲笑いにオールバックの金髪男もつられて嗤う。
「はっ、ただ癇癪起こして突っかかってくるガキじゃねーか。喧嘩慣れもしてねーようだし。弱いくせに喧嘩吹っ掛けてきてんじゃねーぞ、カスが」
見下した目と蔑んだ口でカイラを貶しまくるオートバイ集団。顔を腫らして体中に擦り傷をつけてしまったカイラだが、どうにか立ち上がる。ムカつく相手にボコボコにされて、これ以上ない程頭に血を上らせてしまっている。
(ざけんな……こいつらはクズだ。害にまみれた人間のクズなんだ。こんなゴミクズどもに、いいようにやられてんじゃねーよ俺……っ)
吼えながらカイラはまたも走って突っ込んでいく。相手の頬に拳を入れることに成功はしたが、相手を倒すまでは至らず、反撃を蹴りをくらってまた転がされてしまう。
(クズのくせに、生きる価値が無いゴミクズのくせに、モブカスのくせに、俺を傷つけてんじゃねぇ。見下してんじゃねぇ。喧嘩で負かそうとしてんじゃねぇ…!
モブでクズのお前らは、黙って俺に排除されろよ……!)
プライドが傷つき怒りに震えるカイラだが、自分が喧嘩で男一人相手にも苦戦するあるいは敵わないことを自覚しはじめる。
(ダメだ……一対一の喧嘩ですら楽勝出来ない。殴り合いでこいつらを消すことが出来ない……)
次第に、カイラの目に闇が深まっていき、心が冷えてもいく。
(……ただの暴力で勝てないなら、どうするか。そんなもの、一つしかないだろ……)
背負っていたリュックを外して、中を開けてある物を取り出す―――刃渡り12㎝の包丁である。男たちに気付かれないよう隠しながら取り出す。
(凶器使うしか、ないだろ……!)
カイラは昏い笑みを浮かべた。
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