Episode7.世界防衛凶悪犯機関学校日本支部

部屋に運ばれた昼・夕飯は全て高級ホテルレベルで、箸が進んでしまった。

大浴場はご丁寧に露天風呂まで用意されている。指定された時間に1人で使った。

これも全て、あの大人たちに人生を支配される代償なのだろうか。

大人たちの陰謀に包まれながら、決意を決めた私は眠った。


翌日。部屋の前にはまだ暖かいご飯が置かれていた。

ドアを開けると向かいの部屋の戸田さんが同じようにご飯を取っている。

「…おはようございます」

ペコリと頭を下げると戸田さんは私によく似た笑顔で微笑んだ。

吊り目の瞳がわざとらしく垂れる。

「…おはようございます」

気不味い時間が流れる中、2人はやっぱりわざとらしくご飯を手に取り、部屋の中に消えた。

「あ…おはよう。仲下さん」

ベッドから匂いを嗅ぎつけてムクリと起きた安藤さんが目を擦りながら這い出してくる。

「おはよう。ご飯食べる?」

それなりのルームメイトとしての打ち解けをクリアした私たちは、タメ口で話すようになっていた。

「うん…ありがと」


朝起きた時には悶々としていた視界はクリアになっていて、決意が固まっていた。

現在6時。制服に着替え終わった私と安藤さんはまた、沈黙の中で朝食を咀嚼する。

「7時にHR教室だったよね」

「…うん」

必要最低限の言葉だけを口にして、私たちは各々のやるべきことへと帰っていった。


7時前に着いたHR教室は昨日よりも重い空気漂っている。

決意の中の迷いが空気の燻りになっているようだった。

逃げられないなら、戦うしかない。

これが、私の出した人生だ。


昨日とは違って、真ん中が空いた形で会議室のように席が組まれている。

ご丁寧に席には自分の名前が貼り付けてある。

実は几帳面なのか随分余裕を持って着いたつもりの私たちよりも、

先に道明くんと小林くんは無言で席に座っていた。

「おはよう」

偶然隣になった道明くんに言うと彼はピアスを揺らしながら、こちらを振り向く、ツンと目を逸らして、

「おう」

と小さく言った。見た目より怖くないのかもしれないな。と思いながら私は微笑む。

罰が悪そうにこちらを睨みつけてから、手元のスマホを触り始めていた。


それから、12人全員の決意がクラスに固まった。

橋下先生は7時きっかりに教室に入ってきてから、見渡した私たちに満足そうに笑う。

「今年は、優秀みたいだ」

この大人に私たちの全ては握られたのだ。

全員の視線が確かに先生を貫いたはずなのに先生は飄々とかわす。


さあ、君たちが今からどんな人生を送るのか、説明しよう。

ここに来たからには君たちはこの運命から逃れられないことを覚えておくように。


ごくりと己の決意が飲み込まれていくのを感じて、先生の顔を見ると四方八方にスクリーンが現れた。

正面のスクリーンにプレゼンテーションが映される。


この特別クラスの正式名称は「世界防衛凶悪犯機関学校日本支部」だ。

君たちには「世界防衛凶悪犯機関」の隊員になるためにここで学んで貰う。

この世界防衛凶悪犯機関は、1991年12月26日に事実上終戦した冷戦を受けて、約2年後に発足した。

英語名はWorld Defense Thugs Institution。略してWDTI。

簡単に言えば、世界中をまたにかける警察ぐらいに思ってくれればいい。

卒業生にはFBI捜査官などがいて、世界中で活躍している。

日本で言えば公安警察なんかにも、沢山卒業生が所属しているな。


映された紋章は一見すると国連の紋章に見えるが、よく見えると反転されている。

裏社会から支えると言う意味でもあるのか。


君たちの手に嵌められているのは君たちのためだけに用意されたIDだ。

本人以外の人間は絶対に使えない。

と言うか、本人以外が操作しようとすると高熱を発して、火傷する。

それで基本的に組織に関係している場所は出入りできる。

風呂でも外すな。絶対に自分の身からは離さないように。


私たちが頷いたのを見届けて、先生はまた、操作を続ける。


昨日も言ったが、君たちには極めて貰う分野によってクラスが分かれる。

一つ目が医学専門クラス専攻。

医学・生物学に強い。主に人体に使用する薬の調合や怪我人の手当て要因。

二つ目が社会学専門クラス専攻。

主に組織の上層幹部を務める人間が育つ。

法学などの知識を多く持っており、暗号解読や情報収集。違法行為の隠蔽工作などを務める。

三つ目が科学専門クラス専攻。

主に工学などを中心に武器などを作ったりする。

四つ目が戦闘部隊専門クラス専攻。

身体能力に優れたクラス。主に現場に向かい実践を行う。

五つ目が特殊能力及び学問専門クラス

特殊能力や一見必要なさげな能力でもその分野に特化して活躍する。

そして最後が潜入捜査官専門クラス専攻。

捜査にマルチに活躍する人たち。全ての役職の代理を務めることもできる。

主には潜入操作を行い、人の心理学や変装などに優れている。


私と宮本くんは昨日言われた通り、六つ目の潜入捜査官専門クラス専攻だ。


君たちは2年間の基礎教育の末、アジア選抜試験を受けてもらう。

ここで、アジアの各国支部の人間から本校へ進学する人間を決める。

アジア全各国の候補生の中から選ばれるのは、各クラス4人までだ。

そして、合格者のみが本校へ進学する。

不合格者はそこで、記憶を全て消し去り、

嘘の人生を我々が作り、その人生を生きてきたことになる。

まあ、簡単に言えば生きてない人生が自分の人生として、記憶されるんだな。


クラス中が凍りついた。

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