First semester

Episode.1 謎の推薦状

塾と家、学校と家を永遠と行き来する毎日に迷いを挟んで生きている。

物心つく前から過ごしてきた芸能界から離れ、仲下綾華になることを望んだ。

でも、誰も仲下綾華を求めてなんていなかった。

皆、片桐ななを探している。

メディアにありもない疑いで追いかけ回され、

芸能人というブランドの消えた私からは多くの人が去って行った。

小学校卒業。まだ人生の分岐点にも立っていない私はもう、自分の人生に疲れたようだ。

やり直せるのなら片桐ななの人生など殺して、仲下綾華だけで生きていきたい。

そんなことを今時珍しい鬼電のなる家の固定電話を眺めて考えていた。

小学6年生の11月。せめてこんな世界から逃げ出すために中学受験を決意。

志望校を絞り込み、さあ追い込もうと自分の部屋へ続く廊下を歩く。

そんな時ダイニングテーブルの上にいつも父が読む新聞がないことに気付いた。

ポストがいっぱいかもしれない。

そんないつも通りの忖度を抱えて、玄関先に警戒心を募らせて出る。

家の外に出た途端にパパラッチが待っていた。なんてことが日常なのだ。

今日は誰もいないようだった。

新聞紙を勢いよく取り出すと真っ白い便箋が宙を舞う。

母宛のファンレターだろうかと宛名を見ると「仲下綾華さま」。

滅多に呼ばれない私の名前があった。

誰かが私を見つけてくれたような。

そんな気がして、私は急足で家に入り乱暴にも新聞紙をダイニングテーブルに投げつけた。

階段を駆け上がり、妙に分厚い便箋を丁寧に開封する。不可解に分厚い紙が入っていた。

しかも真っ白い。何も文章が書いていないのだ。悪戯…?沸々と怒りに似たものが浮く。

遊ばれた?その嘲笑うように潔白な紙を握り潰そうとする。するとゆっくりとインクが浮かび上がってきた。

「何…これ?」

まるで魔法のような現象に反射で手を離す。するとパッとインクが消えた。

私が触ると…インクが出てくる…?

疑心暗鬼にカーペットに沈んだ白紙の紙のはじを触るとまた機械的な字が浮かんだ。



推薦状


我が、築馬大学附属中・高等学校は貴殿を特別クラスの生徒として推薦する。

特別クラスとして、入学金及び学費の免除。受験の免除を始めとする特別措置を行う。

及び公人として最大限の配慮を行い、本校として最大限の教育を行う。


貴殿には専門寮で生活の上、特別クラスのことを他言しませんように、お願い申し上げます。

ご家族とのご相談の上で入学を決定されました場合、本書と同封されている契約書に署名をお願い申し上げます。

契約書に署名を確認したしましたら、こちらから入学の詳細の書類を送付させていただきます。

貴殿のご入学をお待ちしております。



特別クラスの推薦…?詐欺…?聞いたこともない。超名門校の推薦。

そもそも何で私に…?成績は上の中ぐらい。推薦の来る理由もない。

でも…受けたい。

せっかくの推薦。片桐ななとしてじゃなくて仲下綾華としての推薦。

理性じゃない。本能なのか。嬉しい。仲下綾華として生まれ変わりたい。

そんな思いが部屋中を駆け巡っている。私の分身ななが目の前にいる。

憎たらしい自分の顔。憎たらしいななの顔。

それをかき消すように思いきり笑ってやった。

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