第15話俺のケツと魔力中年マジカルリョーシュの逆襲

 少し時間が遡る。ケツの少年が気を失い、神と対話をはじめようとしている頃、領主は焦っていた。

「なんなんだ!次から次に!」

「北の塔で爆発が起こった模様です」

「担当者を洗いだせ!後で縛り首にしてやる!」

 ここまで思いどおりに事が進まないのは、この領主の立場になってから1度もなかった。

 皆自分の顔色を伺い、異を唱える者はすぐに排除した。

 だが、今日はどうだ。あれだけの時間と金を注いで準備した異世界人の召喚の儀を、よりにもよって、『国落とし』に知られ、そのために必要な魔力が足りなくなり、各地の領主に頭を下げて回らねばならなかった。さらにはどこからか嗅ぎつけた中央の区長にも知られてしまった。やつは今頃このことを報告しているに違いない。中央に知られてしまっては領主の権限を剥奪、場合によっては叛逆罪でギロチンもありうる。

 なんとしても、なんとしても成功しなければ!

「早くこい!」

 手に握った鎖を強引に引っ張る。鎖の先にはNo.50の魔法少女。初めは美しさから城に連れ去ったが、まさかの魔法少女。しかもキリ番(ウィッチ)と呼ばれ、魔法少女の中でも特異な魔法を使う「魔女」。こいつだ!こいつが来てからわしの計画が狂い始めたのだ。


「婚約は破棄だ!貴様も貴様の妹も処刑してやる!!」

「そんな!約束が!」

「えーい、うるさい!!」

「領主さま!」

 そこへ、衛兵が駆け込んでくる。

「今度はなんだ」

「り、領主様!亡霊が出ました!」

「亡霊だと?!貴様、寝ぼけているのか!」

「めめ、めっそうもございません!!「氷牙」隊長が「赤鷲」と共に」

「ふざけるなああああ!!!」

 完全に怒りが振り切った。この乾きを!この怒り焦げる胸の乾きを!!ぶちまけたい!領主の怒号は城中に響いた。頭が熱い。胸が熱い。

 いや。なんだ。胸に手をやる。この熱さは怒りだけでは無い。

 内ポケットに入っていたのは。2本の杖。1本は『千変』のもの。もう1本は杖?

「そういえば、地下で商人たちをテキトーに相手していたら、1人杖を渡してきたやつがいたな」

 その杖は、魔法のステッキだった。日本での小さな子供から大きなお友達までが大好きなアニメに出てくるようなゴテゴテの杖。中世を思わせるようなこの世界では明らかに異質のそれが、領主の意表をつき、変に冷静にしてしまった。

「あの、女区長が言っていた妙な杖とはこの事か」

 何を思ったか。軽く振ってみる。


「オモイエガイテイッテミヨー!マジカルチェンジ!オモイエガイテイッテミヨー!マジカルチェンジ!オモイエガイテイッテミヨー!マジカルチェンジ!オモイエガイテイッテミヨー!マジカルチェンジ!オモイエガイテイッテミヨー!マジカルチェンジ!オモイエガイテイッテミヨー!マジカルチェンジ!オモイエガイテイッテミヨー!マジカルチェンジ!オモイエガイテイッテミヨー!マジカルチェンジ!」


 機械音が高らかに鳴り響き、若干棒読みの電子音が城に静かに鳴り響く。

「ま、まじかるちぇんじ?」

 広間に光が交錯する。領主の服が弾け飛び、毛の生えた腹がでっぷりと顕になる。魔法の風でマントをはためかせて、くすんだ色の下着が煌々と輝く。

「な、なんだ?!」

 衣装がふっりふりのゴスロリ調に変わり、華やかなメロディが鳴り響いた。

「マジカル!ロジカル!圧政!バンザイ!魔力中年マジカルリョーシュ♡」


 全員が吐いた。

 領主も吐いた。

 口が勝手に動いたし、ポージングも自分の意思では無い。

 ばっちり決まって

 きっちり吐いた。

「ゆ、ゆめに出る」

「お、おかあちゃん」

「目を、目を潰してくれぇ」

「あ、あたまがいたい」

 ぽびゅ!ぽびゅ!ぽびゅ!

 歩くたんびに、可愛らしい音がなる。

「……っ」

 領主は絶句した。

 自身の絶望的な姿ではない。

 幸い、この広間には鏡がない。

 直視しなかったからこそ、致命傷はさけられたのだ。

「…魔力が溢れる」

 彼が言葉を失ったのは、自身に起きたもう一つの変化だ。

 この世界の住人は皆魔力を持っている。だが、一般的に女性の方が多く、男性は少ない。男は長い期間修練してやっと魔法少女の下位No.程度。

 行商人が渡した杖は、しりの少年の杖。彼が二束三文で売った天上(プラネタリウム)の杖の1本。空腹を満たすために、餓死寸前だった彼が引き抜いた杖。『満たす杖(アクエリアス)』。渇望を糧とする杖である。

 十分な魔力があるということは杖を使えるということ。

 そして、領主の手には『千変』の杖がある。

「…やめて……わたしの……杖を」

 にたりと笑う。

「悪しき魔女め、正義の味方が懲らしめてくれるわ」

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