第2話

「女神様と愛する貴方へ」略して「愛あな」。


前世で私が暮らしていた国、日本で人気だった乙女ゲームで、西洋風の世界を舞台にして繰り広げられる、所謂王道物だ。


ヒロインは国の運命を左右する女神様に愛された「愛し子」と呼ばれる貧乏男爵令嬢で、彼女が願えばどんな恋愛だって上手くいうというチート能力を持っている。


それを駆使してプレイヤーはゲームを進めていくのだ。


私は交通事故で命を落とし、気がつけば生前にプレイしていた「愛あな」の世界に転生していた。


それも、ありがちなヒロインや悪役令嬢ではなく、このゲームでヒロインを愛した永遠の女神様に。


私がこの世界に転生してきたのは200年前。


ゲームスタートの220年前に何故か転生させられました。


いや、早過ぎない!?とはつくづく思っているが、しょうがない。


ちなみに、私が相当早く転生させられたことを知ったのはゲームの隠しキャラであるルーファスが生まれてからだ。


この200年、戦争をしたり国々を巡ったりしていたが、まだ20年あるのかい……。



「もう一回国外に出てくる」



私は苦笑しながらルーファスにそう返した。


永遠の女神に限らず、女神の命が尽きるのは誕生から早くて500年後と言われている。


えー、つまり私が死ぬまで最短で300年。


長い、長すぎる。


前世で20歳まで生きられなかった分の寿命がいらないくらい増えて返ってきた。


まあ、それはさておき。


ルーファスは私の言葉に一瞬、意外そうな顔になったが、すぐにいつもの表情に戻った。



「そっか。まあ、20年くらいだったらここにいてもいいけどね」


「え、いいんだ。というか、20年くらいなんて言うのはアンタと私くらいよ」



ルーファスは人間だ。


性別的に女神ではないし、男の神でもない。


ただ、マリーンズ家が特殊なのだ。


この家は代々とてつもなく長生きが生まれ、頑張ればその寿命は脅威の400年。


まあ、歴代の公爵はほとんどその長さに耐えきれなくて自害しているが。


ルーファスの父も最愛の妻と死別し、ルーファスが公爵位を継げる年齢になってから亡くなった。


なお、結婚したのは彼が100歳、相手が20歳の時である。


外見的には同い年だが、実際はとんでもない年の差婚であった。


彼は長生きだったし、今世より平均寿命の長い前世でも大記録になる年齢まで生きていた。


私的には生まれた時から見てきた青年が自害して結構ショックだったのだが、あれから50年も経ってしまったとは。


最初に交流があった人々はとうの昔にいないし、ここ数10年は長期間この国にいなかったのでろくに知り合いもいない。


彼の両親と親しかったのもあり、早ければ自分と寿命が尽きる時期がほぼ変わらないルーファスとだけは交流を続けているけれど。


今ではすっかり私より成長してしまった。



「20年なんて今までの人生の5分の1。俺が20歳だと仮定したら4年くらいでしょ?大したことないからいればいいよ」


「いろいろ無茶苦茶な理論だけどありがとう。助かる」



こうして、国で王族以上に重宝される永遠の女神・ルナティアに転生した私はマリーンズ公爵邸にお邪魔になることになったのであった。

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