乙女ゲームの世界で神になってしまった件について

波野夜緒

第1話

そろそろ、始まる。


そんな気がしてこの国に戻ってきた。


乙女ゲーム「女神様と愛する貴方へ」、略して「愛あな」。


この世界に転生してからずっと、このゲームが始まる日を待ってた。


やっと、やっとこの時が来たと思った。


───しかし、実際はどうだったかといえば。



「あ〜、ミスった。20年早かった」



始まってなかった。


1年ならまだわかる。


でも、20年とかいうかなり大幅な間違いをしてしまった。


私はマリーンズ公爵邸にて、頭を抱えながらもお茶を啜っていた。


目の前に座る男は笑いを堪えるようにこちらを見ている。



「突然帰ってきたと思ったら、20年早まったとは。相変わらずだね、ルナ」



癖のないストレートの黒髪に切れ長の目と瑠璃色の瞳が特徴的な端正かつ中性的な顔立ち。


長身で引き締まった体であることもあり、外見年齢20代前半のこの男、マリーンズ公爵は唯一今も生きているこの国で私の親しい相手だ。


実年齢を知る私からしてみればほぼ詐欺としか思えないが、令嬢たちからさぞキャーキャー言われそうなお顔だ。


まあ、実際言われてたし、現在進行形で言われてるだろうけど。



「ね〜。どうりでアンタが大して歳とってないわけだわ」


「あと20年も経った頃にはいい歳したおっさんになってるだろうけどね」


「嘘つけ。どうせ、外見年齢は20代後半だろ」



嫌味か。


歳をほぼとらない私が言うのもおかしいけど。


わざわざこの部屋に入ってくるような馬鹿はこの男の使用人に存在しないらしく、私は呑気に焼き菓子を食べる。


数10年前(おそらく)より焼き菓子の種類が増えている。


そして、シンプルながら口に広がるバターの風味。


うん、いつの時代もここのお菓子は絶品だ。


そんな私に男、ルーファス・マリーンズは尋ねてきた。



「で?これからどうするの、永遠の女神様」

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