第3話

永遠の女神ルナティア。


彼女はこの国が信仰している平和や災い、全てを司る女神だ。


銀色の髪と黄金に輝く瞳を持ち、その姿はこの世の誰よりも美しいと言われている。


そして、人に紛れている女神ルナティアは王族以上に重宝されているのだった。


……まあ、私のことなんだけど。


マリーンズ邸に居座り始めてから半年が過ぎた。


珍しく休みのルーファスとお茶をしているのだが、どうも沈黙が続いている。


暫くして、ルーファスが重い口を開いた。



「ソウディンクが最近、ルナのことを勘づいてる気がする」


「え、ソウディンクが?私、そんなに会ったことあったっけ?」



私は目を見開く。


ソウディンクはこの国の先代国王だ。


確か、10年くらい前に王位を息子に譲ったとルーファスから聞いた。


ソウディンクは今60歳で、私は彼が生まれた頃から国に長期間滞在してないから、あんまり面識はないはずなんだけどなぁ。



「まあ、ルナは一度見たらなかなか忘れられない顔してるからね」


「どんな顔よ」


「この世の誰よりも美しい女神の顔」



真顔で答えられ、思わずキョトンとする。


あ、私、この世の誰よりも美しい女神だったわ。


自分で言うのめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。



「この間、ルナと永遠の女神の愛し子の可能性がある女生徒を貴族学園に見に行ったでしょ?」


「うん、行ったね」



貴族学園で話題になっているという自称・女神の愛し子が本物かを確認しに行ったのだ。


女神の愛し子って立場的に王族と並ぶからね。


ルーファスにはゲームのことを嘘と真実を交えながら一応話してあるため、貴族学園での話を聞いたときに私にそのことを確かめてくれた。


ゲームのヒロインじゃなかったし、愛した覚えもなかったから偽物だって判明したんだけど。


そもそも、女神の愛し子って私の目の前にいる男だし。


まあ、ヒロインに似てたしピンクブロンズの髪の可愛い子ではあったよね、その子。


自分は永遠の女神の愛し子だって堂々と嘘ついたのはどうかと思うけど。



「その時にこっそりソウディンクも様子を見に来てたんだよ。そしたら、昔見た女神にルナがそっくりだって言い出してさ」


「髪色とかは変えてたんだけどな」



女神は普段、人に紛れてるって言われてるし、実際その通りだからわざわざメイドさんたちに髪の毛の色と瞳の色まで変えてもらったのに。


自分では自信があるつもりだったのにそれがバレたというのはちょっとショックだ。



「恨むんだったら自分の美しさを恨むんだね」


「えぇ……。そんなすぐバレる?」


「ていうかさ、俺と一緒にいる時点でほぼ確定でしょ」



何を今更と言わんばかりの顔のルーファスに私は返す言葉もなくなる。


彼は、私が誰よりも溺愛した(子供の頃は可愛いかったんだよ……!)女神の愛し子だ。


しかも、この国に帰ってきたら大抵マリーンズ家にいるうえ、数10年に一度の特別な式典の時にはほぼルーファスかその前は彼の父にエスコートをお願いしていた。


気がついたらマリーンズ家が国で一番女神と関わりの深い家になっていたのは言うまでもない。


そんな愛し子ルーファスと女神にそっくりな(というか、本当に女神の)私。


ソウディンクの考えも分からなくはない。


それ以前に合ってるし。正解だし。



「で、ソウディンクはルナにお願いがあるんだって」


「お願い?」



ニコニコと笑うルーファスとは対照的に私は顔を顰めた。



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