第34話 人の国 3

どれくらい歩いただろう?

いや、どれくらいミルルカが歩いたのだろう?

もう、かなり日が傾き空が青色から鮮やかなオレンジ色に変わり始めて来ている。


「これが太陽、自然の空なんだね」


歩きながら上を向いて、しみじみとミルルカが呟いた。

奈落の空は、岩の天井だ。

一応魔水晶を通して陽の光が入っていたので、当然夜になれば暗くなっていた。

だけど、今の時間帯、太陽がまだ地平線に沈まないほんの小一時間。

オレンジ色で染まるこの景色は想像しても無理だろうと思う。


「ん?!」

『どうしたの?』


ミルルカが突然止まり後ろを振り向き、視線を小高くなった道の先をジーっと見つめだした。


「何か来る。一つじゃない。人・・色んな音・・魔力・・」


何だろう? 人以外なら馬車とか?

どっちみち一回様子を見た方が良いだろう。


『あの先に茂みがある。あそこに隠れよう!』

「うん!」


僕には魔力はもちろん音なんて全く聞こえないのにミルルカは感じ取っている。

どれだけ先まで感知できるのか分からないけど・・地上に出て余計に鋭くなったんじゃないか?

そんな事を考えている間に茂みに着いたミルルカは周囲を一度確認してから、僕と一緒に茂みの中へと身を隠した。

息をひそめ50メートル程先の街道を注視する。


「来た」


小高くなった先から土煙が見え始めた。

何だか騒がしくないか?

馬の嘶き、馬車の音しかもこれってかなり急いでいる様な? ガラガラと大きな音がここまで響いてきた。


『見えた! 先頭は荷馬車? 逃げてるのか? 後ろは・・・10頭くらいの馬に乘った集団だ』

「へえ、あれが馬かあ~ 始めて見たよ!」


目を輝かせて呟くミルルカ。

ミルルカにとってはこの地上にあるモノは、全てが珍しいんだろうな。

と、今はそんな事を感心してる場合じゃんない!

どう見てもあれは、盗賊とかに襲われてるじゃないか?


『あれ、襲われてる』

「・・・助ける?」


ミルルカがそんな事を聞いてきた。


『人族だよ?』

「ん~そうだけど、私が憎いのは人の王族であって、全ての人族が憎い訳じゃないよ?」


はあ~、何て良い娘なんだ。

人の王族に、特に僕を落としたあの小太りハゲおやじ王に、ミルルカの爪の垢でも煎じて飲ませてやろうか?

いや、あのおっさんにミルルカの爪の垢でさえもったいない。


『じゃあ、助けよう。見ると荷台には小さな子も乘っているみたい。あの子を見殺しには出来ないよね』

「うん! じゃあどうする?」

『ミルルカの魔法で一発というわけにはいかない。あまり強力な魔法を使ったら魔族だってばれるかもしれないからね』

「じゃあこの刀だね」


そう言って腰に携えている綺麗な曲線を描く細身の剣を軽く叩いてみせた。

これ僕は刀だと思ってたけど普通に剣だと言われた。

ただ僕が刀だと言ったらミルルカが気に入ってそれ以来、刀と呼んでいるみたい。


『僕は防御魔法で援護するから気兼ね無く突っ込んで良いよ』

「了解! ルカ君が守ってくれるならいつも以上に頑張れそう♪」


そう言ってくれると僕も嬉しい。


「ルカ君! 追い付かれそうだよ!」

『よし、行こう! ただし僕の合図があるまでは突っ込まずに近くで待機ね。案外荷馬車の方が犯罪者とかかもしれないしね』

「うん、その変はルカ君に任せるね」


そうして僕らは茂みからゆっくりと出ると起伏の在る地形を利用して集団の左後方に回り込む様に動き出した。

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奈落の底に落とされた僕は慕われています。 ユウヒ シンジ @waside210

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