第33話 人の国 2
「緊張するぅ、大丈夫かなぁ?」
奈落の森にあった儀式用の建物を出発した僕達は、取り敢えず森の中の道を森の外縁に向かって歩き出していた。
まあ、奈落の穴が森の中心みたいだし、建物から先は道が無かったから反対の方へ向かうしかなかったんだけどね。
で、その道すがらミルルカが時々同じ言葉を洩らしていたんだ。
まあ、初めての地上だし、魔族以外の人間と会うのは僕以外だと初めてだものね。
『大丈夫だよ。外見上は人族と違うところは無いのでしょ?』
「うん、クルカお婆様言うには、魔法を発動する時瞳の奥が金色に光るくらいかな? って言われてたくらいかな?」
そう言えば? 今までもミルルカが魔法を使っている時に瞳が明るかった様な?
『まあ、だったら魔法を使う時に気をつければ大丈夫だよ』
「う、うん、そうだね」
まだ、不安は取り除かれた訳じゃないみたいだけど、さっきよりは顔を上げてくれたかな?
ただバレないという意味ではもう一つ問題があるんだよね。
結界を破壊とか解除、もしくは弱体化した時にどうなるかなんだよね。
結界が破壊されたとなれば人の世界では大事になるのではないだろうか?
つまり、「魔族が結界を破って地上に現れた!人類の存亡の危機だ! 今すぐ討伐隊の編成を各国に打診! 連合軍を組織し魔族を討伐だ!」 とか?
・・・・それは最悪だ。
何の為に奈落から脱出のか分からないじゃないか。
一番良いのは、表向き結界は存続した状態で、魔族の皆が脱出できる事。
脱出した後、当分の間は表には出ず、出来れば人族が魔族に行った事実を証し認めさせる事、なんだよなぁ。
「どうしたの?」
僕が黙っているのを気にしたのか、顔を近づけて・・
『って! 近いよ!』
「え~、だって何だか難しい顔してるんだもん! 気になるでしょ? もしかして私が魔族だってバレそうなの?」
『違う、違う! そうじゃないんだ。結界を上手く破った後の事を考えていたんだ』
「後のこと?」
僕は考えていた事を、ミルルカにも相談してみた。
「できれば隠し通したいよね?」
『うん、人族にばれない様に脱出して力を蓄える必要があると思うんだ』
「そうなると、やっぱり結界の事をもっと知らなきゃいけないってこと」
『そう、なのでこの結界を作った人の王の所に行って情報を集めないといけないんだ』
「分かった! 当分は魔族の事は隠して人族として過ごさなきゃいけないってことだね?」
『ミルルカにとっては嫌な事かもしれないけど我慢してもらえる?』
「そんなの当然! 皆の為だものそれぐらい我慢できるわ!」
よかった。
自分達を陥れた人族に対して、もっと感情的になるかと思ったけど、冷静に判断してくれて助かる。
(ふふ、当分はルカ君と二人っきりの生活・・・楽しみ・・ふふふふふふ)
?! い、今何か凄い強い意思を感じた気がしたけど・・・・・気のせいか?
ま、まあ良いや。
とにかく今は、何処かの村か街を探してこの辺りの地理や情報を仕入れなくちゃ。
それからも、色々とミルルカと話し合いながら歩いていると、今まで大きな樹々が周りを囲んでいたのに急に前が開け草原が前に現れた。
『地形はなだらかに起伏が多少存在する程度か。樹々は点在してるけど殆どは草原みたい』
「そうね。これじゃあ身を隠すところが殆どないわ」
『でもここを通らないと何処にも行けないんだから仕方ないか・・とにかく慎重に行こう』
ミルルカに注意するように言うと再び歩きだした。
それからほんの少し進んだところで分かれ道になっていた。
『別れ道というよりは本街道からこの奈落の森へ向かう枝道が出てると言った感じだ』
「じゃあ右か左かどっちに言ったら良いか分からないね?」
『う~ん・・・ミルルカ僕を道に降ろしてくれない?』
「う、うん」
ミルルカが僕を分かれ道の真ん中に置いてくれた。
僕は道に出来ている馬車の轍跡を見て考えた。
右の方にも、左の方にも同じくらいの轍の新しさなんだけど、左側だけ奈落に向かう轍が多く、かなりの数が行き来したみたい・・・
『ミルルカ、左に行こう。村か街が近くにあるかもしれない』
「分かったの?」
『たぶんだけどね。だけどここからはもっと慎重に進もう。人族と出会う可能性は高いと思うから』
「・・・・・う、うん! 分かったよルカ君」
ミルルカが僕を抱きかかえ直して、左に向かう街道へ進みだした。
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