第25話 異変 8

「・・ル・・カ」


聞こえる。


「ルカ・・君・」


僕の手を取るんだ!!


「ルカ君!!」


小さすぎる僕の手を目一杯伸ばすと、しっかりと握り返す手の感触があった。


『ミルルカ!!』


僕は名を呼びその感触のあった手を思いっきり引っ張り寄せた。

するとさっきまで真っ暗だった周りが目を開いていられない程に急に輝く。

あまりの眩しさに一瞬体を硬直させてしまったけど、僕の手を握る感触は離れなかった。

そして僕ももう一つの手でそれをしっかりと握り返す。

何故かわからないけど、この手を離したら最後だと思ったからだ。


「・・・・・ルカ君?」


この声?


『ミルルカなの?』

「うん! そうだよ! この手ルカ君だよね?!」


確かにミルルカの声だ。

周りが輝いていてよく見えないけど、僕の手を握るその感触と声は紛れもなくミルルカだ。


『でも、どうしてミルルカがここに居るの?』

「どうしてって、ルカ君が私のところに来てくれたんだよ?」


僕が? 

いつの間に?

けど、周りにを見ても白く光る空間が広がっていてさっきまで居た養殖場とクルカ婆様の姿は見えない。

本当にミルルカの所に来ているの?


「私・・私、本当にもう駄目かと思ったんだよ。もうみんなに会えない、ルカ君にも会えないって・・」

『何があったの?!』


僕は眩しくて手元しか見えない状態の中、ミルルカの手をしっかりと握ってあげる。

すると、眩しく輝いていた空間の光が抑えられて色彩が戻ってくる。

それと同時に視界が戻り、目の前に人影が現れた。


「ルカ君だ・・」

『ミルルカ』


僕がその姿をミルルカと認識した様に、ミルルカも僕の姿を確認した様だ。


「怖かった・・・」


そう呟いて僕の頬に自分の頬を重ねてくる。

その頬からミルルカが震えているのが伝わってくる。

あの元気いっぱいのミルルカがこんなに弱々しく、震えているなんてよっぽどの事があったはずだ。


『何があった? 僕は集落で大きな揺れを感じて、そしたらミルルカの声を聞いたんだ』

「大きな地震があって・・・・・そうだ!? 母様達は?!」

『一緒じゃなかったの?』

「うん、私だけちょっと離れていて・・・・でも早く戻らないと!」


ミルルカが慌てた様子で辺りを見ているけど、まずここが何処だかが良く分からない。

さっきまでの白く輝く空間はなくなり、薄暗く視界が通らない。

間近にいるミルルカは見えるけどその直ぐ後ろが見えない。

でも感覚なのか、閉鎖された空間に居る様な感じはする。


「ちょっと待ってね」


ミルルカがそう言って自分の掌を上に向け、目を閉じた。


「ライト」

『え? 光の玉?』


ミルルカが呟いたと同時に掌から拳大の光の玉が飛び出し、ミルルカの頭の上30センチくらい上で静止した。


「これで辺りが見える・・・・・・何? これ?」


驚くミルルカの声に僕も反応し照らし出された先を見つめると、3メートル先くらいに岩の壁があった。

そのまま左右に視線を動かし上も向いてみた。


『全部、岩・・・岩の壁に囲まれてるのか?』


もう一度今度は上も下も360度全てを見廻したけど、その全てが岩で囲まれていた。

所々魔水晶が飛び出してはいるものの、その殆どが黒い岩で囲まれていた。


「生き埋めになったの?」

『もしかして、ここってミルルカ達が調査に向かった場所なの?』

「違う、けど岩の質感とかは同じ場所にあった岩と同じだと思う・・・あの時、地震で岩が崩れてその時に開いた大穴に私は落ちたはずなの」

『じゃあここはその落ちた穴の中?』

「そうかも・・でもそれならこんなに都合よく出来た空間にいるはずがない。それにここにはルカ君が居る・・・・そうか! もしかしたら・・」


何かを思いついたのか、ミルルカは立ち上がりゆっくりと壁の方に数歩近寄ると正面に向かって手を伸ばし始めた。


「これ、やっぱり・・」


何がやっぱり何だろう?

岩壁の前を叩いたり、撫でたりしながらブツブツと考え込んでる。


『ミルルカ?』

「これ結界だ。しかもかなり強力な結界」

『結界?』

「そうだよ、私の手、岩の壁まで届かない。透明な膜というか壁が私達を取り囲んでる。これ結界でよ。たぶんこれ、ルカ君の結界みたい」

『え? 結界? 僕の?』

「そうだよ。この魔力波動はルカ君の波動だもの。それに結界は聖属性持ちの人が得意な魔法だから、今この奈落に居る者でここまでの防御結界を作れるのはルカ君だけだもん」


僕、そんなものを作ったのか?


「それに、この場所に突然現れたのって転移魔法しか考えられない。これもルカ君だよね?! 凄い!」

『いや、自覚が無いんだけど?』

「無意識なの?!」


僕は返事をせず小さく頷くだけにした。


「そう、でも上手くルカ君の力を利用できれば脱出できる・・・」


ん? ミルルカの顔が暗く沈んだ様な?


『どうしたの?』


「私、ルカ君に頼ってばかりで、またルカ君の力を当てにして・・・こんな小さな体のルカ君に負担ばかりかけて大人として情けなくて・・・」

『そんなの気にしてないよ?』

「でも・・・・それに、本当はルカって名前もどうしようか迷ってて、これって魔族の私達の言葉の意味で、光をもたらす者という意味があるの。結界を越え奈落の底にやって来た君がもしかしたら私達を救ってくれるんじゃないかって勝手な願いの籠った名前だもの。それを君の名前にしていいのかなって悩んじゃって・・・」

『なんだそんな事か』

「え?」

『僕はあの人の王族に贄にされて死ぬはずだったんだ。それをプリムスロードさんとミルルカ達に助けてもらったんだ。だからミルルカ達を救う事に少しでも力になれるなら幾らでもなるつもりだよ』

「でも・・・・」


ガァンン!! ガァッ!グァアラガラガガガ!!!!


突然、僕とミルルカの周囲にある岩が大きく揺れ、亀裂が入りその隙間から水蒸気と赤く熱せられた火の玉みたいな物が噴き出してきた。

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