第24話 異変 7

「まったく母様ったらデリカシーがないんだから!!」


頬を膨らませ機嫌の悪いミルルカ。


「いくら今回は女性しかいないからって皆の前で、お〇っこ、なんて言わないでほしいわよ!!」


文句を言いながらズンズンと進む。


「あ、この辺なら大丈夫そうね」


周りが突き出した様な岩が無数に乱立し、間欠泉も近くに無い場所。


『ここならお母様達のいる場所からは全く見えないし、音も聞こえないわよね?」


辺りをもう一度見廻して誰も居ない事を確認したミルルカは腰に携えていた刀を肩に掛け替え背中に回す。

過酷な環境で過ごして来た彼女達にとっている如何なる場合でも集落以外の場所では戦闘態勢を崩す事は命取りなる事を教わってきた。

だから小用こようをたしている時も自分を守る手段を手放す事はしない。


「とは言ってもこの姿は赤ちゃんさんには見せられないわよね」


下半身に付けている黒い防具を緩め、動きやすい水棲魔獣の革で作った短パンを降ろし、しゃがみ込みながら、ふとそんな事を考えていた。


「そういえばお風呂の時は特に気にならなかったけど、後から考えたら私の全てを真下から見上げられたんだよね・・・今思うとなんてガサツな女だと思われてないかな?」


頬が赤らむのを感じる。


「あ、相手は赤ちゃんなのよ! 何を意識してるのよ!! ・・・・・でも彼って言葉を理解している訳で・・・・」


頬だけじゃなく顔の全てが真っ赤になっている自信がこの時のミルルカにあった。


「何? それに私今、彼って・・・相手は赤ちゃん! そう! まだ何も分からない赤ちゃん・・・じゃなかった。たぶん色々と知っていると思う。私達魔族も見た目通りの年齢じゃないもの。彼だって見た目通りじゃないことだって・・・」


考えれば考える程、赤ちゃんの事が頭から離れなくなっていくミルルカ。


「私って、変態だったのかも・・・・う、ううん! 大丈夫! ちゃんと大人として理性を持って接すれば変な感情が芽生えるなんて・・・ことは・・・・・」


そんな事を考えている時点で意識してるのだと改めて思い知らされるミルルカだった。


「・・・・ルカ君・・・そう言えば名前決めてなかった・・・・帰ったらちゃんと決めてあげないと」


お尻を出してしゃがみ込みながら考える事じゃないですよ・・


「よし! 今は考えるよりまず行動! とにかく早く集落に戻って・・? 地震?」


僅かに自分の足元が揺れた感覚があるミルルカ。

じーっと自分の足元を見ていたその時。


ドゥオオオオオオオンン!!

グラアゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

ガガガガがガガガガ!!!


突然自分の足が持ち上げられバランスを崩すミルルカ。


「きゃ!! 何?! ?? 岩が!?」

 

今まで自分が居た場所から岩の塊がせり上がり始めた。

しかもミルルカの周りでいたるところから突き出して来る。

それと同時に岩の隙間から水蒸気が勢いよく噴き出してきた。


「ミ・・カ・・あ!!」

「母様?」


轟音の中、微かに聞こえたエルカの言葉にミルルカも応えようとするが、岩がぶつかり合う音と水蒸気の噴き出す音で自分の声すら聞こえない。


「とにかく体制を・・・?! えっ!!?」


身体能力の高いミルルカは刻刻と形を変える岩場に上手く足を掛け、手を伸ばしエルカ達が居る方へと向おうとした時、一瞬自分の体がフワッと浮いた気がした。


「しまった!!?」


今までせり上がっていた岩のそれが一瞬で崩れ、ミルルカの真下の地面に大穴が開いた。

瞬時に手が掛かるか足場になる場所を確認しようとしけど・・


「無い・・」


その一瞬で死の恐怖がミルルカを襲った。

それは今までに感じた事がない恐怖だった。


「たすけて・・・・助けて!! ルカ君!!」


思わずミルルカの口からその名前が出た。

落ちていく自分・・・ああ、ルカ君もこんな恐怖を味わったんだ。

ごめんね。


『ミルルカぁあ!!』


「え?」


ミルルカの目の前が急激に光出す。

それは太陽が堕ちて来たのかと思うほどに眩しく輝きだす。


『手を伸ばすんだ!!』


ミルルカはその心に響く声に何の疑いも無く手を伸ばしていた。

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