第23話 異変 6
ミルルカ達が出発して2日目に入った。
あれからも時々、小さな地震が発生しているものの、大きな変化は今のところはなかった。
ただ、あれは何だったんだろう?
あの時確かにミルルカの姿が揺らいだ様な、影が薄くなった様な、変な感覚を感じた気がしたんだ。
この間のムルカさん達の探索部隊が赤竜に襲われた事もあり、今回の地下調査は万全の体勢で出発したんだ。何も心配する事はないと思ってはいるんだけど・・・・・・
「なんじゃ? ボーッとして。わしの作ったお粥はお気に召さんかったかの?」
あ、ついボーっとしてたか。
僕はクルカ婆様の家に居て、御飯とかの世話をしてもらっている。
今は、食事の時間で、お米に似た粒状のものと芋を湯がし、少量の塩と一緒に煮込んだ離乳食を食べさせてもらっていたんだけど、ミルルカの事が気になって食事がおろそかになってしまったいたようだ。
僕は大きく首を振って、口を大きく開けてみせた。
「ハハ、気にせんでもええ。別に怒ってなどおらんよ。どうせミルルカの事でも考えておったんじゃろ?」
図星を指されて、つい顔が熱くなった。
「ほほう、顔を真っ赤にしてからに・・・正直でよろしい。しかし心配せんでも大丈夫じゃて。ミルルカの身体能力は知っておるじゃろ? それにあの子は魔法の習得も異常に早くてな、魔王プリムスロード様の能力を一番色濃く受けつでおる天才じゃ。それにエルカも一緒だし今回は先鋭チームで臨んでおるから万が一にでも大怪我等することはないはずじゃ」
クルカ婆様はちゃんと理解しているかも分からない僕に丁寧に話してくれた。
そのおかげで少しは気持ちが楽になった気がする。
「じゃが心配なのは環境の変化じゃ。この様な事は、ここに落とされてから一度も無かったからの。何が起ころうとしているのか見当もつかん」
首を横に振りながら教えてくれる。
けど、クルカ婆様が首を横に振る度に手元も吊られて左右に動くものだから、スプーンに乗った僕のご飯が左右に振れ、なかなか口に収まらない。
仕方ないのでその動きを追って僕の顔も左右に揺れ出した。
「何じゃその可愛らしい動きは? 年甲斐もなくときめかせるつもりか?♪」
いや、クルカ婆様が動くから仕方なくでしょ。
「まあよい。その可愛らしさはミルルカにまた見せてやってくれ。たぶん喜び過ぎて失神するかもしれんがの?」
うう、それは恥ずかしいので却下です。
「さて、御飯も終わったし今日は養殖場の状況でも見に行くとしようかの? ほれお前さんも一緒にいくのじゃぞ」
そう言うと僕を抱え上げ背中をポンポンと叩きながら家を直ぐに出ていった。
「・・・けっぷ」
「ほほ、可愛らしいげっぷじゃの?」
うう、ほっといて下さい。
自分でも自分の声が可愛らしいと思ってしまうのが嫌なんですからあえて言わないで!
そんな取りとめもない会話を・・・まあクルカ婆様の一方的な話しなんだけど、それを聞いて時々頷いている僕に、クルカ婆様が名前のことで話しだしてくれた。
「しかしすまんの名前が決まらんで」
いえいえ、そんなの何時までも待ちますよ?
「実はの、ミルルカも一つ考えている名前があるそうなんじゃ。ただのその名前の由来じゃとお前さんに希望を託し過ぎて迷惑なんじゃないかって思っておるらしくて、他の名前をもう一度考え直しておるみたいなんじゃ」
なるほど?
それにしてもそんな凄い名前なの?
別に命を救ってもらったミルルカに付けられる名前なら何でも良いんだけどな。
「まあもう少し待ってもらってくれんかの? 必ず良い名前を考えてくれるはずじゃから」
もちろんです!
と、心の中で叫びながら大きく頷いてみせた。
「そうか・・・さてと養殖場に・・・・ん?」
僕とクルカ婆様はこの間ミルルカに連れて見せてもらった養殖場の前までやって来たのだけど・・・・
「長老?!!」
「どうしたのじゃ?! この有り様は?」
「いえ、私にも何が起こっているのかさっぱりで!!」
クルカ婆様が来たのを見たのだろう、養殖場を管理している魔族の女性が駆け寄ってきて、この状況を報告していた。
それは、養殖場のナマズモドキが水面に集まり飛び跳ねたり、凄い勢いで泳いだりして暴れ水飛沫が飛びまくっていたからだ。
「とにかく飛び出した魚を直ぐに戻して・・!!!??」
クルカ婆様が指示を出し始めた時、クルカ婆様の体が大きく揺れた。
「何じゃ?!」
「地震?! かなり大きい?!」
管理者の人はその場に立ち揺れの様子を伺い、クルカ婆様は僕を覆いかぶさる様に抱きかかえその揺れをやり過ごそうと身構えた。
『・・・・・・ルカ・・・・・・』
ん? 今、何か聞こえなかった? ミルルカの声に似てた様な?
『・・・たす・・けて・ルカ・・・』
『?!! ミルルカ?!』
「うぎゃああ! ぎゃああ!!」
「どうしたんじゃ?! 地震が怖いのか?! もう直ぐ収まるから心配せんでもええから」
「ぎゃあ! ぎゃ! ああ!!」
自分でも驚くくらいの大きな叫び声が飛び出していた。
『ミルルカが危ない!?』
何故そう思ったのか・・・分からないけどそうなんだよ!!
『行かなきゃ!!!』
「何じゃ?! 赤んぼうの体が光って・・魔法陣?!」
「長老! クルカ様!! 危ない!!」
「何じゃこの魔法力は? いったい何の魔法を発動しようとしておるんじゃ!?」
クルカ婆様の怒鳴る様な声が一瞬聞こえた気がした。
けど、今はそれどころじゃない!
『ミルルカが助けを求めてるんだ!!』
次の瞬間、僕の目の前は真黒になった。
「消えた・・・転移魔法?」
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