第22話 異変 5

「・・・・・・この辺りで休憩にしましょう」


ミルルカ達の調査部隊が出発して2日目を迎えていた。

奈落の底と言われ、今は魔族が閉じ込められたこの集落から、さらに500メートルは潜った地下。

ミルルカ達、魔族が長年この奈落で生き延びた経験から、今居る場所から100メートルほど下は赤く熱せられた溶岩が蠢いていると考えられていた。

そのせいで、ここは硫黄の臭いと、地下水が水蒸気となって吹き出していた。

その他にもガスも吹き出しているはずで、普通の人種族なら数時間も経てば体が麻痺し動けなくなるはずの過酷な場所で、ミルルカ達は平然と休憩をとっていた。


「それにしても昨年調査した時に比べて確実に暑くなってるわね」


この調査隊のリーダーであるエルカが、回りの状態を観察しながら自分の娘であるミルルカに確認するように言葉をかける。


「体感でしかないから正確じゃないけどね。たぶん確実に暑くなってる。それに間欠泉の数も増えてるみたい」

「みたい? 珍しいわね。ミルルカが曖昧な答えを出すなんて」

「地形が少し変わってるわ。大きくは違わないけど岩が所々崩れてる」


何か書き留めた物を見るわけでもなく、ミルルカは周囲を見ながらそう言い切る。

彼女の特技の一つで、完全記憶というスキルを持っているようで、意識的にお覚えようとした事を写真の様に脳裏に写しとる事ができる便利にスキルだ。


「やはり、地下が変動してるのは確実みたいね。どう思う?」

「母様、何だか嫌な予感がする。もしかしたらこの地下変動を感じて赤竜達は逃げ出してきたのかも?」

「それだけの危険が迫っていると言うの?」

「分からない。でもこのエリアは赤竜の巣があった所なのに1体も確認できてないもの」


二人の会話を聞いている他の魔族も周囲を確認しながら緊張感を走らせ始める。


「戻った方が良いかも。最悪地下の活動が強まればマグマの上昇も考えて集落周辺の防御結界の強化しなくちゃ。あの場所は絶対に守る必要があるもの」

「私たちは人種族が作った奈落の結界で外には出られない。だから集落周辺の環境は必ず守らなきゃ死活問題だものね」


ミルルカの提案にエルカも肯定する。


「幸い地下活動の活発な範囲は今日の調査で大体は把握出来たからそちらに結界を集中させれば問題はないはずだから」

「そうね。赤ちゃんのおかげでムエル達も回復してきてるし、結界構成するのには十分な人員は確保できそうだし大丈夫でしょう」


二人の顔には緊張感は有るものの、それ程悲壮感は無かった。

それだけこの難局を乗り越える事自体は問題ないレベルだと感じていた。


「そうと決まれば、撤収の準備をしましょう」


エルカの掛け声に他の魔族の人達も立ち上がり荷物とかを片付け始めた。


「あ、母様、ちょっと、その、あのね・・・」

「ああ、おしっ・」

「きゃああ!! なにを言おうとしてるのよ!!」

「え? 違うの?」

「ち! 違わないけど・・・」

「なら、おしっ・」

「きゃああああ!! だから直接的に言わないで!!」

「分かったわよ。でもあまり遠くには行かないのよ?」

「分かってます!!」



ミルルカは予め良い場所を確認していたので、そっちへ小走りで向かって行った。


「さて、ミルルカが、お○っこから戻るまでに準備終わらすわよ」

「ハハハ、そこで言ったらミルルカ様が可哀想ですよ」


他の部隊員から笑いが漏れる。

と、その時だった。


ドウオオオンン!!

グラアアアアン!!!

ガシャガラングアシャンンン!!!!


突然、突き上げるような揺れがエルカ達に襲いかかってきた。


「ミルルカああ!!」


エルカが娘が向かった先に叫ぶと同時に目の前に人より大きな岩が一気にせりあがり立ちふさがった。

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