第17話 初魔法 6

『よし、これで完了・・・・終わったあ~・・・・・・』


最後の患者の治癒が完了し終えた。

さすがに、これだけの重傷者を完治させるのには相当な魔力量と操作が必要だった。

治癒魔法を使ってまだ4人だもん。

それにこの赤ちゃんの体だとやはり取り扱いが難しいのかもしれない。

沢山できれば慣れていく感覚はあるんだけど今日の所は、これ以上無理!! て言うくらいの疲労を感じていた。

それに眠気も・・・。


「ちょっと、ミルルカ来なさい!」

「何? 母様?」


ん? ミルルカがエルカ母様さんに呼ばれたみたい。

するとミルルカは治療を終えた僕をまた抱えて立ち上がった。


「何? じゃありません! ちゃんと説明しなさい!」

「母様、 患者さんの近くで大きな声出しちゃ駄目でしょ?」

「え? そ、そうね・・・ちょっとこっちにいらっしゃい」

「分かった」


そう言って僕を抱えたまま、ミルルカはエルカ母様さんの後を付いてテントの外に出て行った。

二人とミルルカに抱えられた僕は、テントの影に隠れる様にしながら向き合う事になる。


「それで、ちゃんと説明してくれるのでしょうね?」

「もちろんよ」


そしてミルルカは集落での出来事を掻い摘んで話だした。

僕がある程度言葉を理解している事、聖属性持ちで自己治癒だけでなく、他の人の怪我を治せる治癒魔法が使える事など、それをミルルカが嬉しそうに話すもんだからちょっと恥ずかしくなってしまった。

だって本当に自分の自慢話の様に話すんだもん。

ただ一つ違うのは、言葉をある程度じゃなく、完璧に理解している点だ。

まあ、これは黙っていてもいいでしょう。

どうせ喋れないんだから理解しても返事が、イエスかノーでしか対応できないもの。


「なるほどね、確かにこの奈落に落とされた贄の子が無事に辿り着くなんてありえなかったもの。その時点でこの子が普通じゃないって事は何となく分かっていた事だもの」

「ね、だからあながちプリムスロード様の魂がこの子を助けて私達に預けられたっていうのも間違いじゃないかもしれないよ?」


はい、間違いじゃないですね。


「どうなの君? 本当にそうなの?」


言葉を理解していると聞いてエルカ母様さんが、面と向かって質問してきた。

ただ何となくだけど、これは答えない方が良いような気がする。

だから僕は小首を傾げて良く分からない素振りをしてみせた。


「そうね、そんな事言われても分からないわよね?」


エルカ母様さんも返事をそれ程期待していなかったみたい。

それ以上は突っ込んで聞いて来なかった。


「何にしても、君のおかげで死人が出なかったわ。本当にお礼を言うわ。ありがとう」


エルカ母様さんが僕に向かって深々と頭を下げてくれた。

僕としては恩返しのつもりだったから、お礼を言われる事ではないと思うけど、それを無下に手を横に振って拒絶するのも違うと思うから、ニコリと笑顔で返すことにした。


「フフ、その笑顔は癒されるわ。それよりミルルカ」

「何? 母様」

「赤ちゃんに名前考えたの?」

「・・・あ!」

「あ、じゃありません! ちゃんと考えてあげなさい。いつまでも赤ちゃんさんじゃ可哀想でしょ?」

「そうだね。赤ちゃんさん、絶対に良い名前考えてあげるからね!」


名前か、ちょっと楽しみだけど不安でもある。

ミルルカのネームセンスはどうなんだろう?


「それとミルルカ。集落に戻ったらお婆様と話しがあるから付き合いなさい」

「良いけど、何?」

「ちょっとね。気になる事があるのよ」

「気になる?」

「ええ、今回の赤竜との遭遇もそうなんだけど、ちょっと嫌な予感がするのよ」

「・・・確かに、赤竜がこの場所に出てくるのはちょっと不思議だものね」

「よろしくね。それじゃあ撤収するわよ」

「了解!」


二人は話を終えると、すでに片付けに入っている他の魔族の人と合流し手順の打ち合わせを始めた。

それにしてもエルカ母様さんの言葉に僕も少し引っ掛かった。

何かが起ころうとしているのだろうか?

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