第16話 初魔法 5
「ミルルカ様! こちらです!!」
集落を出発し、探索部隊の救援に向かった僕達は先行していた母様さん達と合流した。
「ミルルカ、どうして赤ちゃんを連れて来たの?!」
救援部隊として先行していた母様さんが、僕を抱えて来たミルルカに強い口調で怒鳴りつけてきた。
まあ、この反応は当たり前だよね。
「母様! 説明は後にして! 赤ちゃんさんの事はお婆様も承知の上なの!」
「クルカ婆様が? どうして?」
「だから後で説明するから! それより怪我人は?!」
「え? ま、まあ良いわ。今分かっている事を説明するわね」
少し納得いかないって顔をしているエルカ母様さんだったけど、急を要する状況だったのでミルルカに説明を始めだした。
それによると、赤竜2体と遭遇した探索部隊はムエルさんを先頭に戦闘状態に入ったそうだ。
どうも赤竜は魔族の集落へ向かっていたそうでくい止める必要があったらしい。
しかし、探索をメインに考えていた部隊で戦力が不足していたため、怪我をした一人を連絡員に下げ、残ったムエルさんを含む3人で防衛線に入ったそうだ。
その後、十数分後にエルカ母様さん達が到着し、赤竜を倒す事は出来なかったものの撃退には成功したらしい。
けれどその戦闘でムエルさんの救援部隊は致命傷となる傷を負ってしまったようだ。
「母様! ムエルさん達の所に案内して!」
「え、ええ。でももう助かる見込みはないわ」
エルカ母様さんの悲痛な顔から、もう自分達の力ではどうにもならない事なんだと言っている様だった。
『けど!』
「まだ息はあるのね?!」
「ええ、それは・・・」
「だったらまだ間に合うかも! 赤ちゃんさん、お願いできる?!」
ミルルカの必死に頼みだもの、断る訳がない。
それに魔族の人達に受け入れてもらえたから生き延びる事ができたんだ。
恩返しをしないとね。
僕は、ミルルカの指をギュッと握り締め、大きく頷いてみせた。
「母様! ムエルさん達は?!」
「え? あ、あのテントの中よ」
エルカ母様さんが指さした先に少し大きめの簡単なテントが二つ設置してあった。
あの中で怪我人を治療しているのか。
「分かった!」
そう一言い残しミルルカと僕はそのテントの中へと入っていった。
「ちょ、ちょっと! ミルルカ! 何をするの!?」
訳が分からないエルカ母様さんは、慌てて僕達の後を追ってテントに入って来た。
「どう? 大丈夫そう?」
二人の怪我人が横たわる間にミルルカは膝をつき僕にその様子を見せてくれていた。
はっきり言ってよくまだ息があると驚くばかりの状態だった。
二人共、身体のいたる所から出血をしていた。
しかも一人はお腹が大きく抉れ、荒い布で出来た包帯で押さえてはいるものの、中の臓器が一部はみ出ているのが見える。
そしてもう一人は右手と左足が千切れていた。
千切れた手足が横に置いてあるのが余計に悲惨さを物語っている。
「ムエル師匠・・酷い・・・」
ミルルカは臓器がはみ出ている人を見ながら涙を浮かべていた。
この人がムエルさんか。
師匠って事はミルルカの何かの先生なんだろう。
「・・・う、うん! 母様! もう一人の状態は?!」
「え? ああ、この二人よりはましだが、やはり出血は酷い」
「そう・・赤ちゃんさんどうしよう?」
当然、一番酷い人からだ。
棒はムエルさんに手を伸ばし、ミルルカにそれを伝えた。
「分かった。ありがとう赤ちゃんさん」
そう言ってミルルカは横たわるムエルさんの脇に僕を降ろし、後ろから支えてくれた。
「何をするの?!」
未だに何をするのか分からない母様さんは少し苛立ち気味にミルルカを問い質し始めた。
けど、今はそれに応えている暇はない。
僕は両の掌を出血が止まらないムエルさんのお腹に当て目を閉じた。
『後は、集落でやった事を同じように・・・』
一度出来ていたせいだろうか?
簡単に魔力の流れを掴み、身体の再構築に集中できそうだった。
「な!? 何?! 赤ちゃんの手が光出して!? え? そんな・・・」
後ろの方で母様さんの驚く声が聞こえていた。
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