第12話 初魔法 1
「着いたよ! 赤ちゃんさん!!」
僕はミルルカの声と揺さぶる振動で目を覚ました。
『あ、気絶していたのか・・・』
なんとかミルルカとのコミュニケーションの構築を早急にせねば身が持たない・・・
「どう!? 凄いでしょ!!」
まだ、頭が半分目覚めてない感覚の中、僕はミルルカが指さした方向に目を向けてみた。
『え? えええええええ!!!??』
「や? へええええええ!!!」
「ふふ、驚いた?」
いや、その、う、うん、びっくりした。
養殖場は飼育場にも驚いたけど、これはその比じゃないよ!
だって、だって目の前に地上世界が存在していたからだ。
僕は自分の目を疑った。
本当なら目を擦ってもう一度見る、というのが普通なのだろうけど、今の僕の腕では真面に目を擦るなんて高等技術とうてい出来ないのだけど、それでも何とか腕を目の所にやってちょっと動かした。
それほどの驚きが目の前に広がっていた。
地面一面に広がる草花。
右手に一角には人の背丈に数倍の高さはある樹々が青々あと密集している。
小さな小川も流れて、小鳥も囀ってる。
完璧に地上の自然だ。
ただ、その世界も数百メートル先の見える岩肌のせいで、ここが奈落の世界だという事を思い出されてしまう。
『けど、それにしても何でこんな場所が・・・・』
「ここを見つけた時にご先祖様達は驚嘆したそうよ。上を見てごらん」
そう言ってミルルカが僕の顔が上を見える様に抱え直してくれた。
『?! 何だあれ!?』
僕は最初あれが何か分からなかった。
あまりにもキラキラと輝いていて眩しかったからだ。
それでも目を細めジーっと見ていると・・・・あ!
『魔水晶だ!!』
確かに魔水晶なんだけどその量が異常だ。
天井一面にびっしりと突き出し、僕達がいる地面に光を届けている。
しかも熱も感じる。
この野球場が4個分くらい入りそうな広大な地面をその光と熱が全てに注いでいる。
本当に地上に入るみたいだ。
「ほら、風も感じるでしょ?」
『? ・・・・あ、本当だ微かだけど空気の流れがある』
「どこか岩の隙間を通って空気の流れがあるの。たぶん奈落の底程になると地熱があったり氷結している場所があったりと温度差が激しせいで気流が発生してるみたいなの。そんな条件が偶然重なった場所、それがここみたい。私は地上を見たい事がないから実感はないけど、やっぱりこんな感じなのかな?」
僕の目を見ながら、聞いて来るミルルカ。
そうだと言いたいけど、まだ声帯が赤ちゃんなので言葉に出来ないのがもどかしい。
「なんて聞いても分からないか。いくら地上から来たといってもこんに小さいもの、分からないよね?」
本当にもどかしい・・・・
何んとかミルルカに地上の世界を見せてあげたいな。
でも、そうだな、もし地上に出れたとしても、その後どうなる?
また人族と対立するのか?
それとも圧倒的武力の前にまた奈落へ落とされるのか?
最悪は、魔族のみんなが殺されてしまうことにも・・・・
それだけは絶対に避けたい。
「どうかした? 赤ちゃんさん。眉間にシワが寄ってるわよ?」
ああ、いかん、いかん。
今からそんな事を考えても仕方がない。
先ずはこの結界からだ。
「ドォオォオオンン!!」
突然、空気を揺らす様な音が響いた。
「何?!」
ミルルカが険しい顔で周囲を見回す。
僕も一緒に周りに注意をはらうが何か変わった事は見当たらない。
「ドォオォオオオオオオオオンン!!!!」
「また?」
同じ様な音がまた聞こえた。
でもさっきより大きくなってるし、それにこの揺れ。
「何? 地震? それにしては揺れが短い・・・」
僕は直接地面の揺れは感じてないのでどんな揺れなのかは分からない。
ミルルカを通して揺れている事が分る程度だ。
だからミルルカが言った言葉でしか理解できなかったが地震じゃなさそうだ。
「ドォオォオオオオオオオオンン!!!!」
また、空気を震わす音と揺れが来た。
ミルルカに緊張が走るのが伝わる。
けど、これ、僕にとっては至福の時か?
ミルルカの胸という天然のクッションが程好く揺れるので、つい顔がにやけてしまいそうだ。
「なんだか嫌な予感がする」
ミルルカの息を飲む様に話す言葉がこれが只事で無い事を表していた。
僕もにやけてる場合じゃない。
「赤ちゃんさん! 集落に戻るわ!」
そう言うが早いか、ミルルカが僕を落とさない様に胸に押し込め、一気に走り出した。
『ちょ、ちょっと! ミルルカさん! またジェットコースター・・うわぁああああ!』
その後の記憶が飛んだのは言うまでもない・・・。
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