第11話 奈落の底は 6

「赤ん坊なんてミルルカ様以来だね!」


僕は今、魔族の人達が住む集落の中心広場にミルルカと訪れていた。

こうして見ると20人くらい居るだろうか?

ただ不思議な事に女性ばかりで男性が見当たらない。

もしかしたら男性陣は集落外に出ているのだろうか?


「みんな! 今日から赤ちゃんさんが私達の仲間になった! よろしく頼むね!」

「はい! 分かりました!」

「よろしくね赤ちゃん!」

「ミルルカ様! 後で私も抱っこさせてください!」


おお、みんなが歓迎してくれてる。

ちょっと安心した。


「それにしてもこんな赤ん坊を贄にするんだねぇ人族は」

「ああ、まったく酷い事をするもんだよ」

「そんなに私達を閉じ込めたいなら王族の自分が贄になればいいんだよ!」

「その通りよ!」


こうして聞くと人族全体と言うよりは人の王族に対して辛辣なだけの様に聞こえる。

それにこんな地下深くに閉じ込めらている割には皆の表情が明るい。

太陽もないこんな地下では真面な生活なんて維持できないはずなのに、そのわりには皆の顔色は悪くないし、殺伐とした感じもない。

もしかして案外、生活するのに問題ないのだろうか?

それに着ている物もきれいだし、古くなっている訳でもない。

ただ、皆がスポーツ用のインナーみたいな恰好だったりミニスカートにTシャツとかの軽装で、肌の露出が多いのは節約をしているせいなのだろうか?


「ミルルカ様、この赤ちゃんは何て言う名前なんですか?」


突然、集まっていた女性陣の中からそんな言葉が飛び出して来た。

そう言えば、あの小太り王族が何か言ってた様な・・・ノルア? だっけ?

その名前はいらないや。

かと言って前世の名前は思い出せないんだよね。


「名前? 赤ちゃんさんよ?」

「・・・・・・はい?」

「だから、赤ちゃんさん」

「いや、いや、いや、ミルルカ様、赤ちゃんは名前ではないですよ?」

「え? だってみんな赤ちゃんって言ってるじゃない? 母様も言っていたよ?」

「それは、生まれて1,2年の子をみんな赤ちゃんって言うんです! ミルルカ様も生まれたての頃は赤ちゃんと呼ばれていたんですよ? 今はミルルカという名前がありますでしょ?」

「え? そうなの?」


あ、ミルルカって案外天然娘なのかも・・・・ちょっと微笑ましい。


「じゃ、じゃあ! 赤ちゃんさんの名前って何て言うの?!」

「それをお聞きしてるのではないですか」


集まっていた女性陣の表情がやれやれといった諦めみたいになっている気がする。

やっぱりミルルカってそんな感じなのか?

それを悟ったのか困惑の表情をするミルルカ。


「じゃあ、ミルルカ様がお決めになったらどうです?」

「そうね! この赤ちゃんの事はミルルカ様が面倒を見るのでしょ?」

「え? ええ婆様がそう言ってた」

「じゃあ、ミルルカ様がこの赤ちゃんさんのお母さんなんですから、名前を考えてあげてくださいな」

「わ、私が?!!」

「当たり前じゃないですか! ミルルカ様がお育てになるのでしょう? だったらミルルカ様がお母さんじゃないですか」

「私が、お母さん・・・・」


ん? なんだかミルルカの僕を抱きしめる力が少し強くなってきてない? 

まさか! また力の暴走? 


『まずい! 今は全身を抱きしめられてんだぞ?! 今度は腕だけじゃなく全身が複雑骨折するんじゃないか?!』


嫌な予感が頭を過ぎった。

血を吐き、背骨が変な形で曲がっている姿が・・・


『ミルルカ!! 止め~ええええええ!!!』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?


『痛みが来ない?』


僕は瞑った目を開く。

すると何とも言えない優しい顔をするミルルカが写った。

よ、良かったあ~・・

力加減を覚えたのかも?


「えへへ、私がお母さんかあ、うん! 絶対に良い名前を考えてあげるからね!!」


おお! ものすごく気合が入ってるぞ!


「例えば、赤ちゃんさんだから、アカ!」


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?』


「もしくは・・・ポチ!」


アカ? ポチ?

アカはまだ赤ちゃんから来てるとは思うけど、ポチって何?

なんの関連性もないよ!!

ミルルカってやっぱり天然だった!! 

ネーミングセンス、皆無!!!


「ミルルカ様・・」

「なあに?」

「名前はエルカ様と相談されてお決めになった方が良いかと・・」

「え? 母様と? 何で?」

「そのですね、赤ちゃんが大きくなった時に悲しむと思いますので」

「・・・・? そうなの?」


何方か知りませんが、よく言ってくれました!! 


「よく分からないけど分かったわ」


僕の未来が守られました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る