第10話 奈落の底は 5

僕とミルルカは、皆と別れてから奈落の中を歩いている。

どうもミルルカが僕に奈落の世界を見せようとしてくれている様だ。

で、驚いたのが魚の養殖場があった。

養殖場を管理しているお姉さんに魚を見せてもらったけど、あれはナマズだ。

しかも結構大きかった。

特徴的な髭に、何とも言えない独特のシルエット。

ただ前世の記憶にあるナマズより白っぽい表面と目玉が殆ど退化していたところが違うかな?

でも前世でもナマズの蒲焼とか有ったはずだし、食用には充分だろう。

ただ、餌がちょっとねえ・・・・ミミズなんだけど・・・あの長くピンク色でウネウネしている特徴はどう見てもミミズだ。

でもねえ、あれをミミズと言って良いのだろうか?

つまり、あれは大きすぎるんだ。

だって胴体の太さが大人の腕くらい太いんだよ?

それに長さは大人の身長を軽く超えている。

いわゆる魔物化したミミズ、ワームとか言われる類の物に近い。

どうもこの奈落の底に住む魔物や魔獣にとって、ここの環境は住みやすいらしい。

体長も人の背丈ほどあるし、それを養殖管理のお姉さんが鼻歌混じりにブツブツ切って、ナマズモドキにあげてるんだもん。

さすがにちょっと気持ち悪くなった。


「どうだった? 赤ちゃんさん。驚いたでしょ? でもね魚だけじゃないんだよ? 他のエリアではジャージーという魔獣を飼育していて貴重な精肉やミルクとかを生産しているんだ。あ、飼育肥料は主に苔だよ。魔水晶から入る僅かな光で育つ苔で魔力も多く含むから、ジャージーの飼育飼料以外にも私達も貴重な野菜として食べたりするんだよ」


なるほど。

規模はそれ程大きくはないけど、この奈落で住む魔族の人数次第では十分な量を確保出来るかも・・・・。

これなら1000年程、この奈落で生き延びて来たとしても不思議じゃないかもしれない。


「それにね、この奈落の底には濃い魔力が溜まっているから、私達魔族はその魔力を取り込み地上で暮らすより身体能力が向上するみたい。だからこんな僻地で生き延びる事が出来たの。ただ、奈落の結界は聖属性を利用した耐魔法、魔法崩壊、魔力浄化が組み合わさった結界でそれに触れると魔力が力の源で魔法力の強い魔族にとっては厄介なのよ。下手をすれば魔力枯渇でコアが停止。つまり死んでしまうわ」


つまり地上に出る方法は魔族には手段が無いという事か。

けど、こうして1000年間生き延びて来たと言う事はミルルカ達は諦めてないんだろうな。

そんな彼女達に僕が何か出来る事があるのだろうか?

いや、魔王さんに託されたんだ。

必ず方法を見つけるんだ!


「でもこんな事、赤ちゃんさんに言っても分からないよね? なんでこんな話ししたんだろう?」


いえ、助かりました。

何となく事情が掴めてきたから。


「あ、そうだ! もう一つとっておきの場所が在るの! 赤ちゃんさんも気に入ると思うから連れて行ってあげる!」


突然そう言うとミルルカが僕を抱きしめる力をほんの少し強くして走り出した。

今更に思うけど、よく赤ん坊を抱いてこれだけ早く走れるもんだ。ミルルカって一見華奢に見えるけど本当に身体能力が高いのが分る。


「ちょっと近道するよ!」


『え? ・・・・! ヒッ!?』


急にジャンプ!?


『あ! こら! 絶壁みたいな岩肌を軽々と飛んで・・・ヒィ~!! 駆け上がるな!! ゆ、揺れて!!』


暫くジェットコースターより怖い体験を数分する事になった・・・・





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