第9話 奈落の底は 4
「君、人族の贄の子に間違いなさそうね。この腕の治癒速度が異常に早いのは聖属性持ちの証。魔族には聖属性持ちは居ないからね」
母様さんの声に少し圧を感じる。
僕の腕を持つ母様さんの手が少し震えている気がする。
もしかして、魔族の自分達をこんな奈落に落とし、封印した人族の恨みを僕にも懐いているのかも?
実際僕はこの奈落の結界の糧となる為に落とされたんだし、魔族の人から見たら、こいつのせいでって思うよね?
もしかして殺される?
いや、それなら当に殺されてるはず。
じゃあ殺さなかった理由は?
僕を育ててこの奈落の世界で扱き使うつもりなのかも・・・・・
「なんてこと・・なんてことをしてくれるの!!」
お、怒ってる!?
や、やっぱり殺されるのか?
「なんてことをするの人の王は!!」
え?
「こんな、こんな可愛らしい赤ちゃんを奈落の結界の贄にするなんて! 悪魔の所業よ!! 君、もう大丈夫だからね。私達が君の受けた仕打ちを帳消しにするぐらい愛してあげるからね」
あ、え~っと、これって僕は殺されないってことかな?
・・・・・・・・・・良かったぁ~!!
最初の勢いだと殺されるかと思ったよ。
母様さんは、ミルルカから僕を取り上げギュウッと抱きしめてきた。
いや、これは何とも・・・母様さんの胸、すっごい弾力。
「母様!! 私の赤ちゃんさんを取り上げないで!!」
「ちょっとくらい良いじゃない♪ 私も久しぶりにこの感覚に浸りたいのよ!」
「だめ!!」
二人は言い合いながら、それでも母様さんの方が上手なのだろう一向に僕を離してくれなさそうで・・あ、でも、これちょっと力が、それに胸の谷間に僕の口と鼻が塞がって・・・・く、苦しい!!
「これ! エルカ、赤ん坊が息が出来ないで苦しんどるぞ!」
「え? あ!! ご、ごめんなさい!!」
「まったくお主も一応母親なのだから気をつけるんだよ」
「ご、ごめんなさい、クルカ婆様」
ん? 初めて聞く声だな。
声からすると結構なお歳の方のようだけど・・・この体勢だと僕の背の方なのでよく見えない。
「婆様! 母様にもっと言ってやってください!!」
「そうじゃの、エルカいい加減赤ちゃんをミルルカに返してやれ。大人げない」
「ええ! でも・・・」
クルカ婆様という人が母様さんを睨みつけている。
「う、うう分かったわよ。はいミルルカ。ちゃんと優しくするのよ?」
「分かってます!」
「もう大丈夫だからねぇ~赤ちゃんさん♪」
少し名残惜しい気持ちもあるが、ミルルカに抱かれているのも気持ちが良いのでそこは問題無しだ。
「さて、改めてじゃがこの子は贄の子で間違いないのじゃな?」
「はい。この治癒速度、それい私の鑑定でもこの赤ちゃんは聖属性の持ち主に間違いないわ。聖属性は魔族には無い属性だもの」
「なるほどの。それならばどうやって無事にこの奈落の底にこれたんじゃ? 普通は結界に入って暫くして爆散するはずなのじゃが・・それにもし不発だったとしてもこの高さで落とされて無事な訳がないのじゃがの」
はい、ごもっともな指摘です。
けど、今の僕にはそれを伝える手段がございません!!
「そうですね。でもそれは後で検証しましょう。今はこの子が無事だったことに感謝しましょう」
「・・・そうじゃの。実際この子が爆散しなかった事で結界の修繕が行われず、強度が落ちるのじゃからの」
「はい、次の贄の儀式までの50年余りの間に地上に出られるチャンスが出来るかもしれません」
なるほど。
二人の会話から僕が死ななかった事は、吉兆なのかもしれない。
なら絶対に僕をこの奈落の底では死なせないだろう。
「さて、ミルルカ」
「は、はい!」
「その赤ん坊、お前さんが責任をもって育てな。腕を砕いた償いだよ」
「わ、分かってる!! 赤ちゃんさんは私が絶対に守ってみせるから!!」
拳を上げながら僕をギュッと抱きしめてくるミルルカ。
今度は力加減間違わないでね?
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