第6話 奈落の底は 1

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!? ゆ・・め?』


夢にしてはやたらとリアルな・・・・そうこの体に残るあの矢の感触。

忘れたくても忘れられない感覚。


『そうか、僕は魔王プリムスロードの魂と融合してその全ての力を受け取ったんだ。それは過去の記憶も体感した感触も・・・あれは夢だけど現実に有った事だ』


体が震えている。

魔王さんめ、あんな記憶や体感した感触まで僕にくれなくてもいいじゃないか。

ちょっと恨みます。

・・・・けど、これが魔王さんの最後の記憶なんだ。

なんとも言えない気持ちになる。


『まあ、これも何かの縁か。僕で出来る事は頑張ってみよう』


そう決意してみたのだけど・・・・・


『ここって何処だ?』


さっきまでの暗闇の中とは違う・・・

辺りを見回す。

と言っても赤ん坊の僕に見れる範囲なんてほとんどないのだけどね。


『・・・・・あれ? 暗くない?』


最初に感じたのがそれだった。

僕は確か奈落の底に落ちて行ったはず。

なのに何故かほんのり明るい気がする。

太陽とかの明るさというより、夜、畜光型の照明を切った時のほんのりとした明るさに近い雰囲気だ。

それによく見ると周りは岩肌が見える。

それに背中に感じるこの固さ・・・・地面?


『無事に到達した? ここが奈落の底なのか?』


魔王さんの言葉を思いだす。

僕を奈落の底に誘導するって・・・・・じゃあ本当にここが奈落の底?

もう一度ゆっくりと周りを見ると、黒々とした岩肌に、所々水晶の様な鉱物が頭を覗かせているのが見える。


『あれが光っているのか?』


どうやらあれは魔水晶と言うみたいだ。

魔王さんの記憶が教えてくれた。

あの魔水晶、地中で木の根の様に繋がってそれが地上にまで到達している物があるそうだ。

その地上に出た魔水晶が陽の光を吸収し地中深くまで届けているらしい。


『通りで周りは岩だらけなのにほんのりと明るい訳だ』


ちょっとホッとした。

奈落と言うから凄く暗いイメージだったけど、案外視界がとれるので少し安心した。

とは言ってもこんな岩だらけの環境で魔族の人が本当に生き残っているのだろうか?

一抹の不安が頭を過ぎる。


『・・・・・良し!! とにかく行動するしかない! という訳でさっそく魔法を使ってみよう!!』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうすればいい?

そうだ! イメージだ! マンガや小説でよく言っているじゃないか。

イメージすれば無詠唱で魔法が発動するって!

よし! 先ずは炎のイメージを・・・・・・・・・・・・? 何も起こらない。じゃあ呪文を・・・・魔王さんの記憶から・・・・


『ファイアーボール!!』

「あ、ああぎゅああ!!」


赤ん坊が喋れるわけないじゃないか!!



・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり魔法を使うには修練が必要なのか?

それともこの赤ん坊の体が要因かも。

じゃあ今すぐ魔法は使えないの?


『どうするんだよ!! これじゃあ何も出来ないじゃないか!!』


うう、このままやっぱり死ぬ運命なのか?


「コツ、コツ・・・」


ん? 今、何か音がしなかった?


「コツ、コツ、コツ・・・」


あ! やっぱり音がする。

この音、岩肌で反響して分かりづらいけど、僕の方に近づいて来てないか?


「コツ、コツ・・・・」


近づいている!

岩が崩れたりとかの音じゃない。

何かが歩いている音だ。

まさか魔物?!

今の僕は身動き一つ出来ない!

こんな所を魔物に見つかったら、クリスマスパーティーのテーブルに置かれた、ケン〇ッ〇ーの様にむさぼり食われてしまう!!

どうにかしなきゃ!!


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


どうにもできない!!


『え~いい!! どうにでもしてくれ!!』

「ぎゃああ!! おぎゃあしゃぎゃあ!!」

「そこにだれかいるの?」


え? 人の声? しかも女性の声じゃないか?


「居るのなら出て来なさい!!」


『出れるのなら出たいです!!』

「ぎゃぎゃあばああじゃあ!!」

「何? 何の鳴き声?」


え? 赤ん坊ですよ?


「聞いた事の無い鳴き声だわ」


『はい? 赤ちゃんの泣き声ですよ~鳴き声じゃないですよ~』


「どうしよう? でも危険な魔獣ならほっとけないし・・・」


赤ちゃんの泣き声を聞いた事がないのか?

そんな事ある?


「どうする? でも懐かしい魔力波長を感じる・・・探ってみようかな?」


お! こっちに向かってくる。

よし! 


『僕はここです!!』

「ああぎゃああ!!」


「どう言う事? 鳴き声は近くで聞こえるのに姿が見えないなんて・・」


気付かない?!


「いったん戻ろうかしら・・」


やめて~!!

今あなたが居なくなったら僕本当に死ぬしかないんだよ!!

気付いてもらう為に僕はそれこそ必死に泣いた。


「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃああ!!」

「何?! どこに居るの!! まさか精神系操作の魔獣? まさか? 幽霊?!!」


今度は幽霊だって?!


「まさか本当に!? これが母様が言っていたゴースト・・・・幽霊なの?!! きゃあああああ!!!」


あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げた・・・・

彼女は僕の泣き声より遥かに大きな悲鳴をあげ、岩陰の奥へと逃げていった。

あの岩の先にこちらからは見えないけど奥に通じる道があるのかも・・・・・・・・


『そんな事はどうでも良い!! カムバック!! 彼女!!!』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『帰ってこない・・・だれか助けてよ・・・・・』

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