第5話 落とされて 5
本当に消えてしまったのか?・・・・・
どうする?
う~ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仕方ない言われた通りに魔王さんから貰った記憶を探ってみるか。
僕は、自分の頭の中を探るように集中してみた。
『これ? かな?』
覚えのない記憶がチラチラと見え隠れしている。
それを引き出すようなイメージをして・・・・・・・・?!
『わっ!?』
途端に頭の中に大量の情報が流れ込んできた!
『こ、これはさすがに・・あ、頭が破裂しそう・・と、止まれ! 止まれ!! 止まれ~!!』
・・・・・・・・・・・・・・な、何とか止まった?
『はあ、はあ、はあ、っ! ビックリしたあ!』
記憶の量が異常だし、いっぺんに流れ込んで来るなんて思いもしなかった。
それに考えてみたら僕って今赤ちゃんだった。
未発達な脳みそに今の情報量は致死量だよ。
これからは慎重に引き出さないと。
けど、ある程度は分かった。
この奈落の結界の事とか、魔族の事とか。
それでも少し情報量が多いな。
整理しないと・・・・・・あ? ・・・眠気が・・・あれ?
駄目だ・・・・考えれ・・・・そうか・・・赤ん坊の・・脳みそだから・・限界が・・・・・もう・・・・・・・無理・・
僕は眠気には勝てず記憶の整理をすることなく再び眠りについてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「魔王プリムスロード様! 魔物の群れの誘導に成功! 8割以上が我等魔族軍に向かい始めました!」
「ご苦労! このまま我らが囮になり奈落へと魔物達を誘い込むぞ!」
「「「「おおおおおお!!」」」」
黒く光る甲冑を着た集団が、馬を駆り怒涛の勢いで突き進む。
大小様々な樹々の間をまるで予め決めていたかのように軽やかにすり抜け進姿はまるで風の様だ。
その先頭を駆る魔王プリムスロードは集団の中でも際立つ甲冑を身に纏い、その存在を後方の者に見せつけながら走り抜けて行く。
「父様! レアダール王を筆頭とする人族連合の作戦通りに進行していますね」
その先頭を駆るプリムスロードを父と呼ぶ他の集団とは異なる銀色の甲冑を身に纏った女性が横を並走しながら話し出した。
「ルルカ、油断は禁物だぞ。今回の魔物の異常発生の原因はまだ分かっていない。もしこれ以上に魔物が大量に発生すれば、我々だけの力では抑えきれないのだぞ?」
「はい、申し訳ありません」
馬を走らせている為、よく分からないがルルカと呼ばれた女性は頭を少し下げた様に見えた。
「王よ! もう直ぐ奈落の穴の縁に到達します!!」
「了解だ!! 私は右翼集団の指揮をとる。ルルカお前は左翼集団の先頭を任す!」
「分かりました!」
「伝令! 作戦通り魔物の集団の最後方にレアダール王率いる人族連合の配置が完了。魔物の後方の封鎖に成功いたしました!」
「了解だ。皆の者! 聞いた通りだ! このまま魔物を誘い込み奈落の世界に沈めるぞ!!」
「「「「おおお!!」」」」
黒の甲冑を着た魔族の集団の進むスピードが更に加速する。
その後方、30メートルくらいには森の樹々を薙ぎ倒し一心不乱に前方の魔族の集団を追いかける数千は超える魔物の群れがあった。
「森を抜けます!!」
その時先頭近くの魔族の者が大声を上げた。
それと同時に集団の目の前が大きく開けた。
「・・・・・・・今だ!!」
プリムスロードが声を張り上げる。
それと同時に前に進んでいた50騎の集団が綺麗に左右に分かれ進行方向を変えた。
「よし! 成功・・・」
「?!!」
「ドオオオオンン!!!!」
プリムスロードの目の前に突然、爆炎が立ち昇った。
それは大きな壁となって魔族の集団の行く先を防いでしまう。
必死に馬を止めるプリムスロード。
しかし幾人かの騎馬はその炎に壁に突っ込んでいた。
「何が起こった!!」
「分かりません! しかしこれは高等爆炎魔法なのは間違いありません!!」
プリムスロードの問いに側近の魔族が答えた。
「馬鹿な・・・そうだ左翼は!?」
「同じです!! あちらも爆炎魔法の壁に行く手を阻まれております!」
「どう言う事だ? 魔物が魔法を? そんな事はありえん! では・・・まさか」
「王よ! 後方より魔物の集団が迫って・・ぎゃああ!」
一人の悲鳴が聞こえた瞬間、それは抗う術もなく魔族の集団を間近に迫っていた奈落の口へ落としていく。
大量の魔物と重なる様に黒い甲冑の魔族達が落ちていく。
「ルルカ!!」
「父様!!」
落ちる瞬間プリムスロードが娘の名を呼びそれに応える声が聞こえた。
その声の方に王が視線を向けると、自分と同じ様に落ちるルルカの姿を確認した。
咄嗟に二人はお互いに向かって手を差し出す。
「一斉斉射!!」
プリムスロードの頭の上から大きな声がした。
「ぎゃああ!」
「な、何だ!!」
「ぐあああ!」
プリムスロードの視線に次々と仲間の魔族に幾本もの矢が突き刺さり血を噴き出す光景が映し出された。
プリムスロードは落ちながら上を見上げる。
そこに見えた者は、爆炎の壁の更に向こう側、魔族軍が進みはずだった位置から弓を自分達に向けて放つ鈍い銀色の甲冑を着る者だった。
「まさか、あれはレアダール王の騎士・・・何故だ!?」
「全弓兵! 敵王に向け斉射!!」
人族の騎士の掛け声と共に数十の矢が全て魔王プリムスロードに向けて放たれた。
「父様!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「敵魔族軍の先鋭部隊の討伐完了致しました」
「そうか。目障りな者達が一つ消えたか・・・この世界は人族による支配が自然なのだ。少し魔法に長けているからといって他種族から世界の盟主などと持ち上げられるなど有ってはならんのだ」
大きなテントを背にし金色の椅子に頬杖をつきながら座る男が独り言の様に呟いていた。
その男はゆっくりと椅子から立つ。
「皆の者! 魔物の氾濫を誘発し人世界に甚大なる被害をもたらそうとした魔族軍は我がレアダールが打ちのめした! これで世界は平穏を取り戻したのだ!!」
「英雄王! レアダール!!」
「レアダール王! 万歳!!」
レアダールの前には数万の兵士が跪き、大声で王を称える声が幾重にも重なり続けた。
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