第4話 落とされて 4

『何をそんなに嘆いているのだ?』


憑依してきた幽霊が僕に問いかけてくる。


『悪霊に憑りつかれて嬉しい人は居ないと思いますけど?』


僕は恨み節を悪霊に投げつけてやった。

どうせ、死ぬなら目一杯反攻してやろう!


『違う! 違う!! 私は悪霊なんかじゃない!』

『は? だって今、魔王とか言って・・悪魔の王でしょ?』

『違う!! あんな血も涙もない奴らと一緒にしないでくれ! 私は魔族の王! 魔王プリムスロードだ!』

『・・・・悪魔じゃないの?』

『ない!! 魔族と言う一種族であって人族やエルフ族と同じこの世界の住人だった』

『・・・・じゃあ悪霊じゃないのですね?』

『そうだ!』

『でも僕の魂を乗っ取ろうとしている?』

『だから違う! と言っているであろう? どちらかと言うと君の魂に私の魂が飲み込まれると言った方が正しい!』

『そうなんですか。僕はてっきり体を乗っ取られると思ってまし・・・・はい?』


僕の魂が魔王の魂を飲み込む?

まさか僕の方がこの世界では悪魔的存在なのか?


『・・・もしかして僕ってこの世界では悪者何ですか? だからこんな地下深くに投げ捨てられたんですか?』

『それも違う。君が捨てられたのは、この私を含めた魔族をこの奈落の底に閉じ込める為の結界維持の為だ』


そう言えばあの小太り王が似た様な事を呟いていた様な?

つまり僕はその結界維持の燃料として生贄にさせられたと言う事?

普通、人の子をそんな道具みたいな扱いをするか?

死ぬんだよ? 無抵抗な赤ん坊を殺すんだよ?

人として最低じゃないか?


『まあ怒るのもむりはない。私も人の王族に殺され同族共々この奈落に封じ込められたのだからな』


魔王さんの声にも怒りを感じる。

そうか。この人もあの王族達に酷い目に遭わされているんだ。


『ごめんなさい。気が付いたら今までいた世界とは違う世界に居て、大人だったはずなのに赤ん坊になっているわ、小太りオッサンにこの大穴に投げ飛ばされるわで、ちょっと追い込まれてたせいで魔王さんを悪霊だと悪い方に思ってしまって』

『そうか、君は転生者だったのか。道理で私の問い掛けに答えれる知識がある訳だ。納得だよ。それと謝る必要はない君の反応は当然だ。私も配慮に欠けていたよ。なにせこの1000年程の間に多くの贄がその命を落としていったが誰一人として私の魂の波長と合う者を見つけ出す事は出来なかった。だから君を見つけた時には少し気持ちが昂っていたかもしれん』


1000年? そんなに昔の人なのか?

それに魂の波長?

僕の魂って魔王さんと同じ波長なの?

だから助けてくれたのか? そうなら他の贄になった子は見捨てたのか?


『ん? どうした?』

『僕以外の贄の子は死んだのですか?』

『・・・ああ、皆この結界の贄として死んだよ。もし私の魂と波長が合えば、魔法を発動させる事が出来て助けられていたんだがな』


ん? どういう事だ?


『あなたが魔法を発動するんじゃないのですか?』

『あ、ああ、そう言う事か、いやすまん。魔法を発動させる為には魔核というコアが必要なんだ。そのコアは実体の体の中にしか育たない。だから魂となった私にはコアが存在しないのだ。だから魔法を発動させる為には、今の様に魂を癒合させコアを使わせてもらう必要がある』


なるほど。

魂の波長が合った僕だから魂を融合させて助ける事が出来たのか。


『何もできずに子供達が死んでいくのを見続けるのはさすがに堪えたよ』


1000年もの間、この魔王さんはどうする事も出来ない人の死を見続けてきたんだ。

今の僕には想像も出来ないほどの辛さだったのかもしれない。


『とにかくこれで私の役目は終わりそうだ。君が私の力を全て受け継ぎ、この地の底で細々と生きる同族を救い、人の王族を懲らしめてくれるのだから』

『・・・・・・・・・・・・・・・・はい? 今何か言いました?』

『いや、だから同族を救い、人族を懲らしめてくれると・・』

『誰がですか?』

『え? 君だよ?』

『いつ決まったんですか?』

『今だよ?』

『・・・・拒否権は?』

『・・・・死ぬはずだった君の命を救おうと言うんだよ?』

『それを言いますか?』

『ハハ、してくれるよね?』


断わる事なんてできないじゃないか。

・・・・・・とは言え、人族に対しては僕も許せないし、いつか仕返しをしたいとは思う。

それにこんな地の底に封じ込められた人達がいるのなら助けたいと思うのは人情でしょう?


『分かりました。出来る限りはしてみます。でも出来なかったからって文句は言わないでくださいよ?』

『そうか! やってくれるか。それならば良い。失敗したとしてもそれ以上は言わんよ』

『そうですか。じゃあどうすれば良いのか教えてもらえます?』

『よし! それじゃあまず最初に・・・・・あ、すまん! もう完全に吸収されて私の意思人格はこの世から消えてしまうようだ』

『ちょと! まだ何も聞いてませんよ!!』

『いや、こればっかりはどうにもならん。君の魂は相当に食いしん坊みたいだ。予定よりかなり早く飲み込まれそうだ。なので後は私の記憶を辿り君自信が自力で把握してくれ』

『ちょ、ちょっと! そんな無責任な!』

『それでは、後はよろしく!!』

『こら! 僕は赤ちゃんなんだぞ! どうやって同族さん達とコミュニケーションをとるんですか! 魔法は呪文とか必要無いんですか!?』

『・・・・・・・・あ、』

『・・あ、じゃない!! まさか本当に・・・』

『す、すまん!! もう無理! ごめん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


それ以降魔王さんと会話が出来なく・・・・・


『最後に! ちゃんと奈落の底まで誘導するからな。安心して僕の記憶でも覗いてくれたまえ! では!!』 

『おい!!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る